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鎌倉の古建築(寺院編)   四 脚 門
寺院の門のなかで一番多く目にする四脚門(しきゃくもん、よつあしもん)を取り上げています。四脚門と呼ばれていますが実際には6本の柱があります。
中心に、本柱(ほんばしら)、親柱、棟柱(むなばしら)などとも呼ばれる2本の太い柱と、その前後に、やや細めの4本の副柱(そえばしら)などとも呼ばれる控柱(ひかえばしら)が立ちます。

四脚門のような呼び方は八脚門(はっきゃくもん、やつあしもん)の場合も同様です。八脚門には12本の柱(中心に、4本の柱が横に並び、前後に各4本が並ぶ)がありますが、中心の4本を除いた、8本の控柱の数で呼ばれています。

鎌倉の四脚門の中で、江戸時代までのものは38件が挙げられています。
「鎌倉市文化財総合目録(建造物篇)」(鎌倉市教育委員会 昭和62年(1987)発行:以下「目録」と呼ぶ)による。



なにげなく通ってしまうかもしれない四脚門にも、よく見ると構造の違いがあることが分ります。「目録」に従ってその特徴を見ることにしました。

先に述べたように、四脚門は、中心となる2本の太い柱(通常は円形)と、その前後に中心の柱よりやや細い4本の円形または四角の柱を立てた比較的簡単な構造です。屋根は「切妻反り破風造り」と呼ばれるものが代表的で、棟を中央にして前後に勾配をつけた屋根で、反りをもつ瓦葺のものが多く見られます。

四脚門の構造の違いは、主として中心の柱(本柱)と前後の柱(控柱)のつなぎかたと、側面(切妻部分)での棟の支えかたにあるようです。違いを見る場合は、特に外側から側面を見ると分り易いと思います。

ご理解していただく一助として3次元(3D)画像で「屋根を除く主要な構造」を作成しました。画像の上でクリックしていただくと大きな画像が出ます。なお、特徴を示す部材の部分は、識別のため異なる色(赤、緑など)をもちいています。

様式 と 構造の説明 事例 と 構造モデル
No.1 棟柱・海老虹梁式
(むなばしら・えびこうりょうしき)

中心となる2本の本柱(ここでは棟柱と呼ぶのがふさわしいでしょう)が棟(近く)まで到達しているものです。(様式のNo.2も同様です。)
棟柱の上部と控柱の上とを海老虹梁と呼ばれる湾曲の大きな梁でつないでいるのが特徴です。
その下には、前後の控柱の頭の部分にあって、本柱を貫いてつなぐ材が通ります。これは柱と柱を横に貫くので貫(ぬき)と呼ばれますが、ここでは頭の部分でつなぐので頭貫(かしらぬき)と呼ばれます。

海老虹梁は鎌倉時代の禅宗様建築に始まったといわれていますが、これを用いていることは、四脚門の中では”最も禅宗様の特色を発揮したもの”(「目録」)で、鎌倉では妙法寺の山門が一番古いとのことです。

(1)「棟柱・海老虹梁式の例」へ

(2)この様式の「山門のリスト」へ

妙法寺 山門

同上 側面


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No.2 棟柱・繋貫式
(むなばしら・つなぎぬきしき)

中心となる(2本の)本柱(棟柱)が棟(近く)まで到達している点は、様式No.1と同じです。
違いは、本柱控柱の上とをでつないでいることです。
その下には、No.1と同様、前後の控柱の上部を本柱を貫いてつなぐ頭貫があります。

No.1と同様に禅宗様であるとのことです。

鎌倉で古いものは17世紀中期ころの寿福寺の惣門や、大慶寺山門で、No.1と並ぶ古い形式とのことです。(「目録」)

(1)「棟柱・繋貫式の例」へ

(2)この様式の「山門のリスト」へ

寿福寺 惣門
同上 側面


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No.3 虹梁大瓶束式
(こうりょう たいへいづかしき)

本柱と控柱の高さがほぼ同じで、それらは頭貫でつながれていますが、特徴は、その上に虹梁(ゆるやかな上反りを持った梁)が横たわり、さらにその上に大瓶束と呼ばれる’瓶’を逆さにしたような(つか)が乗り、棟を支えるものです。

(1)「虹梁大瓶束式の例」へ

(2)この様式の「山門のリスト」へ

常楽寺 山門

同上 側面


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No.4 虹梁大瓶束笈形式
(こうりょう たいへいづか おいがたしき)

構造の基本はNo.3と同じです。違いは、大瓶束の両脇に笈形(大瓶束の両脇に装飾として置く彫り物)が付きます。
笈形は山伏の背負う笈の形に由来するといわれますが、両手を合わせたような形なので合掌鰭(がっしょうひれ)とか、大瓶束につくので大瓶鰭(たいへいびれ)ともいわれます。

この種の門も基本は禅宗様とのことです。

なお、ここに分類される京都から移建した建長寺の惣門は禅宗様の部分もありますが、全体としては和様です。(「目録」)

この派生形として、側面の虹梁とその上の大瓶束と笈形が一段外側に出た肘木(ひじき)と斗(ます)(出組みといいます)の上に乗っています。名越の長勝寺と手広の青蓮寺の例があります。基本は禅宗様ですが、その装飾はその建てられた時代、”幕末期の過剰な装飾の傾向”を反映しているそうです。

(1)「虹梁大瓶束笈形式の例」へ

この様式の「山門のリスト」へ

極楽寺 山門
同上 側面

同上 大瓶束と笈形


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No.5 虹梁蟇股式
(こうりょう かえるまたしき)

中心である本柱と脇の控柱は、No.3や4と同様、ほぼ同じ高さです。2本の本柱の上に前後の控柱の方向に、虹梁を配し、
虹梁の上に、蛙の股に似ていることから呼ばれるようになったといわれる蟇股(かえるまた:加重を支え、また装飾目的の部材)が乗ります。
ここに使われる蟇股は、中がくりぬかれていないので板蟇股と呼ばれます。通常仏堂に見られる蟇股は中がくりぬかれ、さらに彫物がつくものが多く、透かし蟇股、本蟇股、刳抜蟇股などと呼ばれています。

虹梁と蟇股を用いるのは和様の代表的な様式で、浄光明寺の山門(旧英勝寺所在)はその様式をよく伝えているとのことです。一方、九品寺本興寺などの門は他の部分に禅宗様の影響が著しいとのことです。(「目録」)

今月のテーマ
(1)「虹梁蟇股式の例」へ

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浄光明寺 山門

同上 側面


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