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編集部員のリレー随筆(61)

全国 変わり種共同浴場(その8)

−唐破風のある共同浴場−

制作:ひろさん

全国各地の共同浴場を訪ね歩いて14〜5年になります。
ここでいう「共同浴場」とは、熱源が温泉で、誰にでも公開している(誰でも希望すれば入ることのできる)浴場をいいます。
主に全国の温泉場に見られますが、青森県の各市、長野県諏訪市、大分県の別府市や、熊本県山鹿市・人吉市・菊池市、鹿児島県鹿児島市のように市街地の至る所に公衆浴場や日帰り温泉施設として点在する都市もあります。
このレポートは変わり種共同浴場の第八弾です。

○ エッ? 共同浴場に唐破風屋根?

唐破風(屋根)とはどういうものか?。

破風とは一般に切妻屋根の側面にある三角形の合掌の部分をさしますが、唐破風は弓を横にしたような形をし、中央が高く、左右になだらかに流れる曲線をもつ破風をいいます。

唐破風は、古来、寺社建築に用いられてきましたが、明治時代以降、湯屋建築にも用いられたらしく、特に京都とか東京の銭湯には多く残されていることがWebで報告されています。

道後温泉本館

さて、共同浴場では、唐破風(屋根)はどうなっているか?。

有名なのは、愛媛県の道後温泉の道後温泉本館です。
道後温泉本館のうち、神の湯は1894年(明治27年)に竣工したとされており、この建物を含めて四棟の建物が国の重要文化財に指定されています。
1894年(明治27年)に撮影された道後温泉本館の写真を見ると唐破風の玄関は見当たりませんが、北側側面に3カ所の唐破風を見ることが出来、これがある時期までの玄関だと云われています。

道後温泉本館
(道後温泉本館 愛媛県−2002年4月筆者撮影)

道後温泉本館-ウィキペディア

山鹿温泉 さくら湯

さて、話は飛んで、熊本県山鹿市にあるさくら湯です。

さくら湯は平成24年に再建されました。
このさくら湯の正面玄関に立派な唐破風屋根があり、建物の裏面に廻ると裏側にも唐破風屋根があるのですが、さくら湯の歴史を同浴場のホームページで見てみると、どうも道後温泉本館と密接な関係があるようです。

山鹿温泉さくら湯
(山鹿温泉さくら湯 熊本県)

さくら湯ホームページ

さくら湯の歴史は同ホームページによると、江戸期の細川藩の藩主の休息所に遡るとされています。
その後、藩主の休息所以外に御茶屋の機能も付加され、さらに「御前湯」、「御次湯」、「外湯」、「馬立」などが加わったそうです。「湯」とつく機能は、殿様以外の浴場機能といわれ、また、明治3〜5年に地域全体が工事にかかわり市民温泉として生まれ変わったとのことです。

ところで、唐破風が造られた経緯は、1898年(明治31年)に、道後温泉の棟梁・坂本又八郎氏を山鹿に招き大改修を実施したことから始まったと推定されるとのことです。

明治の世に、四国から棟梁を招いて巨大建築のさくら湯を建築した山鹿市の熱意はたいしたものだと敬服せざるを得ません。

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武雄温泉 新館

もう一つ、歴史的に忘れてならないのが、東京駅や日本銀行の建築設計に携わった辰野金吾氏の手がけた武雄温泉の楼門と新館です。

武雄温泉楼門・新館は1914年(大正3年)に武雄温泉組(現・武雄温泉株式会社)の宮原忠直組長(故人)が計画し、設計は辰野・葛西建築事務所が担当、施工は清水組(現清水建設)が担当したそうです。
新館の竣工は1915年(大正4年)で、新館には二階の窓に三カ所の唐破風が施工されています。

武雄温泉 新館
(武雄温泉 新館)


辰野金吾氏は佐賀県唐津の出身で、多くの名建築を残していますが、木造和風建築で現存するのは数少ないと云われています。
武雄温泉楼門と新館は、2003年(平成15年)3月に復原され、2005年(平成17年)7月に国の重要文化財に指定されました。

現在、共同浴場として運営されている「元湯」、「蓬莱湯」、「鷺乃湯」は楼門をくぐった武雄温泉株式会社の敷地の別の建物で営業しており、新館の中にある五銭湯、十銭湯などは保存された姿を見学することが可能です。どちらも浴槽の深さは深く、特製のタイルが美しい浴場でした。

筆者が訪ねた2005年の一般公開では、五銭湯は足湯として無料で入浴することが出来ました。

新館内に復元された五銭湯
 
新館内に復元された十銭湯
(新館内に復元された五銭湯)
(新館内に復元された十銭湯)


建設当時は、武雄温泉新館の浴場は一般公開されたとのことですから、保養施設として大衆に利用されていたと推定されるます。
共同浴場の一つの在り方が現存し、身をもって体験することが可能な例として 武雄温泉は貴重な存在です。


では、他の共同浴場はどうなのか?。

筆者の巡った共同浴場で唐破風をあしらった建物は21カ所です。


その一部を写真で紹介します。

唐破風は格好良く、建物に重厚な印象を与えますが、もともと共同浴場の起源は共有財産の源泉を共同で守り、共同で利用し、維持管理をするという趣旨から発展してきたと考えれば、建物は必要最小限の質素なものであっただろうし、従って共同浴場の建物に唐破風をつけるという遊び心は明治以降、大正か昭和になってからと見るのが妥当だと思われます。

しかし、その土地の基幹温泉浴場となる建物に重厚な印象を与えるために、唐破風をつけた心意気は見上げたものだと思わざるを得ません。

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遠刈田温泉神の湯

宮城県蔵王町の遠刈田温泉は6〜7年前に建てられました。
昔からあった鉄筋コンクリート造の遠刈田センター浴湯が老朽化して建て直され神の湯となりました。
規模はやや大きくなり、雰囲気も良い浴場です。
入浴料金は¥300です。
遠刈田温泉にはもう一軒共同浴場「寿の湯」があり、この浴場も唐破風の玄関があります。

遠刈田温泉神の湯
 
神の湯浴槽
(遠刈田温泉神の湯)
(神の湯浴槽)

小野川温泉尼湯

山形県の米沢市郊外にある尼湯の建物です。
規模は小さく、男女それぞれ 5〜6人が入れるほどの可愛らしい共同浴場です。
入浴料金は¥200で、近所の商店から入浴券を購入して入浴中は脱衣場の籠の前に掲示し、入浴後ポストに投入する仕組みになっています。

小野川温泉尼湯
 
尼湯浴槽
(小野川温泉尼湯)
(尼湯浴槽)

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野沢温泉大湯

長野県野沢村は温泉街に共同浴場が13カ所点在する外湯天国の温泉場です。
13カ所の共同浴場の内中心になるのが大湯で、建物も立派ですし、立地も温泉街の中心に近い場所にあります。

13カ所の外湯は全て外来の入浴客は寸志の入浴料金で入浴できます。

また、河原湯という外湯も唐破風屋根が備わった建物です。

温泉街の町内毎に13カ所の共同浴場を維持管理する組合があり、入浴する人は気持ちよく入浴が可能です。

野沢温泉大湯
 
大湯浴槽
(野沢温泉大湯)
(大湯浴槽)

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山田温泉大湯

長野県高山村の山田温泉にある大湯は温泉街の中心をなす共同浴場です。
規模は中規模で、板張りの浴槽は入り心地が良く、無色透明の 含硫黄−ナトリウム・カルシウム−塩化物泉(硫化水素型)も気持ちよい肌触りです。
入浴料金は¥300です。

山田温泉大湯
 
大湯浴槽
(山田温泉大湯)
(大湯浴槽)

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伊東温泉和田寿老人の湯

静岡県伊東市には共同浴場が11カ所あります。
それぞれ七福神の名前をつけ、入り口には七福神の石像を飾っています。
その中で、和田寿老人の湯は、2008年に隣の敷地にリニューアルオープンしたのですが、この建物を地区の公民館として使用し、唐破風屋根をつけました。
入浴料金は¥300です。

伊東温泉和田寿老人の湯
 
和田寿老人の湯浴槽
(伊東温泉和田寿老人の湯)
(和田寿老人の湯浴槽)

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亀川温泉 浜田温泉

別府市の北の外れにある浜田温泉は別府市営の温泉の一つですが、中規模の共同浴場で、内部はバリアフリーになっており、車椅子でも楽々と入ることが出来る優れた共同浴場です。
脱衣場はもちろん、トイレに至るまで全てバリアフリーで、手すりも配慮されている共同浴場は見たことがありません。
入浴料金は100円で、年中無休です。
泉質は塩化物泉で舐めると塩辛く、湯温も結構高いのですが、うめないと入れない程ではなく、遠くから(たとえば関西圏から)車で通う人もいるようです。

浜田温泉
 
浜田温泉浴槽
(浜田温泉)
(浜田温泉浴槽)


この浜田温泉の正面には、浜田温泉の旧館があります。
旧館は老朽化したから建て替えられたのですが、浜田温泉資料館として保存され同温泉の歴史を伝えています。
浜田温泉旧館は昭和10年に建築され、別府市の別府温泉・竹瓦温泉は昭和13年の建築です。
別府市にこの二つの共同浴場の建物が保存されていることは共同浴場の建物の歴史をたどるものにとって特筆すべきことです。さすがに泉都別府というべきでしょうか。

浜田温泉旧館
 
竹瓦温泉
(浜田温泉旧館=浜田温泉資料館)
(竹瓦温泉)

なお、竹瓦温泉は、2004年(平成16年)に登録有形文化財に登録され、2009年(平成21年)には近代化産業遺産に認定されています。

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杖立温泉薬師湯

熊本県の北端は大分県日田市に接していますが、この熊本県小国町にある温泉場の一つが杖立温泉です。 杖立川の両岸は深く切れ込んでおり、その両岸に温泉街が発達して、多くの旅館が軒を連ねています。
共同浴場の薬師湯は、県道から石段を下った場所にあり、唐破風の門をくぐると通路をつたって浴場に至ります。
入浴料金は200円です。

杖立温泉薬師湯
 
薬師湯浴槽
(杖立温泉薬師湯)
(薬師湯浴槽と脱衣用棚)

浴場はもちろん男女別ですが、脱衣場は独立しておらず、浴場の中に簀の子と板製の棚しかありません。
浴槽は2〜3人が入れる大きさで、熱い湯があふれています。

浴場には管理人がおらず、入浴料金は料金箱に自分で入れることになっています。


杖立温泉薬師湯の各種掲示
(杖立温泉薬師湯の各種掲示)


また、浴場前の通路に、この浴場の改修時に寄付をした人の木札、当番の人の木札、外来入浴者への注意書きなどが掲示されており、運営の一端を知ることが出来ます。


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