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編集部員のリレー随筆(46)

全国 変わり種共同浴場(その4)

制作:ひろさん

ここでいう「共同浴場」とは、熱源が温泉で、誰にでも公開している(誰でも希望すれば入ることのできる)浴場をいいます。
主に全国の温泉場に見られますが、青森県の各市、長野県諏訪市、大分県の別府市や、鹿児島県鹿児島市のように市街地の至る所に公衆浴場として点在する都市もあります。
このレポートは先に書いた変わり種共同浴場の第四弾です。
今回は他の商売から共同浴場に進出した例を3カ所ほど紹介します。




つがる市・光風温泉
平湯バスターミナル・アルプス街道平湯
別府市観海寺温泉・いちのいで会館


○ エッ? 自動車整備工場に公衆浴場? (つがる市・光風温泉)

青森県つがる市には温泉を熱源とした公衆浴場が数多くあります。
今回紹介する旧木造町周辺にも旧町役場を中心にして4箇所ほどあります。
どの公衆浴場もそれぞれ良い温泉ですが、特に光風温泉はオーナーの人間味を遺憾なく発揮した温泉です。

光風温泉
(光風温泉)

この光風温泉は、下の光風商会の工場と軒を連ねています。
造りも雰囲気も工場そのものです。
ただ、光風温泉は、中に入ると殺風景な中にも暖かみが感じられるのです。

光風商会の工場
(光風商会の工場)

光風温泉の入り口から中に入ると浴場入り口までは広いロビーですが、一部畳敷きの場所をのぞいては木製の机と木製のベンチが並んでいるだけの殺風景なロビーです。
ただ、時分時には、其処ここに人が集まり、楽しい団らんが展開します。
公衆浴場の創業者の奥さんも、中の番台に居るのでなく、このロビーに陣取って入浴料金を徴収しています。


浴場ロビー
 
浴場ロビー2
(浴場ロビー)
(浴場ロビー2)

浴室内に入ると、当然ながら番台には人は居らず、脱衣場は木の床で一部畳敷きになっています。
脱衣場には低い木製の棚、と脱衣用籠があるだけのシンプルなものです。

浴室は、タイル張りですが、温泉の析出物で一部茶色になっています。
女湯とに仕切りに沿って浴槽があり、反対側は洗い場です。
壁絵は大黒様(?)と鯛という珍しい物です。

浴槽
 
壁絵
(浴槽)
(浴槽)

透明でうす茶褐色をおびたお湯は、奥の浴槽の方がぬるめ、手前が熱めで、中に入って首まで浸かるとぬるぬるすべすべ感が強く、お湯の良さが感じられます。
お湯から出た感じはややべたべたとした感覚ですが、身体にしみ込んで良くあたたまります。

番台
 
脱衣場
 
会長
(番台は中向き)
 
(脱衣場)
 
(会長)

お湯に入っていた先客が、会長が来る時間だから会っていった方がよいというので、会長の出勤を待ちました。

会長は、自動車整備工場は子供達に任せ、今は公衆浴場専任ですが、風呂場の掃除などは息子達とその奥さん、孫達が担当しているとのこと。
若い頃から、湯治場をいろいろ訪ね、あるとき自分の工場内敷地をボーリングしたところ、どこにも負けない温泉を掘り当て、公衆浴場を作って地域の人にも入ってもらおうとこの仕事を始めたのだそうです。
因みに、つがる市の公衆浴場の価格は320円〜390円が標準ですが、光風温泉は250円でした。

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○ エッ? バスターミナルに共同浴場? (平湯温泉・アルプス街道平湯)

岐阜県平湯温泉にあるバスターミナルには、ターミナル機能の他に、レストラン、土産物屋、地元産品即売所、掛け流しの天然温泉施設などを備えた「アルプス街道平湯」という施設があります。

これは濃飛乗合自動車(株)(通称濃飛バス)が運営している施設ですから、全くの異業種からの参入ではないかも知れませんが、非常に繁盛しており、一浴に値する施設です。

光風温泉
(レスト&スパ アルプス街道平湯)

スカイガーデン露天風呂と称されるお風呂はこのビルの三階にあります。
当初は内湯だけでスタートしましたが、露天風呂の方が客寄せが出来ると、後から露天風呂を増設しました。

内湯も露天風呂も見晴らしが良く、晴れると奥飛騨の山々が望遠できます。

内湯
 
露天風呂
(内湯)
(露天風呂)

脱衣場
 
休憩所
(脱衣場)
(休憩所)

お湯は定評ある平湯温泉のお湯で、源泉名は「ターミナルの湯」です。

泉質はナトリウム・カルシウム・マグネシウム−炭酸水素塩泉で温度は68.7度と申し分ありません。

平湯温泉は、昔は単に奥飛騨温泉郷への入り口でしたが、平湯トンネルが開通すると長野県へのアクセスが良くなり、また、上高地へのマイカー規制、乗鞍岳へのマイカ ー規制などで、乗り合いバスの需要が高まり、この地に車を置いて上記の観光地にバスで出かけるという人の需要が非常に高まっています。

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○ エッ? 仕出し料理店が共同浴場に進出? (別府・いちのいで会館)

大分県別府温泉は数多くの共同浴場があり、この共同浴場をキーとして地域振興を図っている土地柄なので、いろいろと珍しい共同浴場があります。

ここで紹介するいちのいで会館は仕出し屋さんで、この仕出し屋さんの食堂で昼食を摂ると、この場所に掘り当てた温泉を使った豪快な露天風呂に無料で入れるという共同浴場です。


いちのいで会館露天風呂
(いちのいで会館露天風呂−景観の湯)


いちのいで会館露天風呂
(いちのいで会館露天風呂−景観の湯その2)

場所は別府を流れる朝見川の上流で、別府湾を見下ろす景勝地です。
露天風呂は二種類あって、毎日日替わりで男女が入れ替わります。広いプールのような浴槽が「景観の湯」で、片方は岩に囲まれた「金鉱の湯」と呼ばれています。

景観の湯はプールのような浴槽が2段あります。

金鉱の湯は巨石を組んだ露天風呂が5段ほどあって、一番下の露天風呂から別府湾がわずかに望めます。

いちのいで会館露天風呂
(いちのいで会館露天風呂−金鉱の湯)

急坂をようやく上って、いちのいで会館にたどり着くと、鉄パイプと櫓があり、鉄パイプからは湯気が出ています。
その奥に二階建て建物があり、一階は厨房と配膳室、二階は大広間の食堂です。

二階に案内され、席に着くと、「食事が先ですか?お風呂が先ですか?」と尋ねられ、どちらかを選ぶわけです。

いちのいで会館
 
食堂
(いちのいで会館)
(食堂)

お風呂に入る場合は、先ずコインロッカーに大半の荷物を入れ、軽装で、サンダルを借りて外に出ます。
もちろんお風呂セットやバスタオルは持参します。
急坂を少し上ると道は二手に分かれ、男女別々にその日指定されている露天風呂の脱衣小屋に行きます。
露天風呂は上にある写真の通りそれぞれ豪快です。

食堂のメニューは定食だけで、冬期はだんご汁定食、夏期は松花堂弁当とのことです。
だんご汁定食はだんご汁の他にとり天、卵焼き、ゼンマイの煮付、天ぷら、おむすび2ヶなどで1300円です。
だんご汁ととり天は共に大分県の郷土料理で、だんご汁は小麦粉を練って太い紐状にしたいわば煮込みうどんか、山梨県のほうとうのような食べ物ですが、温泉であたたまった上に腹の中からもあたたまるという至福の食事になります。

だんご汁定食
(だんご汁定食)

ところで、いちのいで会館が名高い訳はだんご汁もさることながら、お湯が限りなく青色に染まって行くところにあります。

湧出した当初のお湯は無色透明ですが、時間と共にコバルトブルーになる理由はメタケイ酸(H2SiO3) が原因といわれています。
源泉の温度が100度を超えているというのも珍しいことです。

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