鎌倉夕景

  日暮れ時、夕暮れ、灯ともし頃、多少ニュアンスは違うかも知れないが、極く普通にそっけなく言えば、夕方。季節によって時刻もまるで違うし、なんとなく情感も違う。理窟でいえば、夏至が一番日が長く、冬至は最も日が短い訳だが、これと実際の日の暮れる時間とは、どうも違うように思えてならない。勿論日の出の時刻もあるから、一概に夕方だけで計ることは出来ないのであろうが、感覚的には、夏至よりももっと遅い眞夏の方が日が長いように感じるし、冬も12月より1月の大寒の頃の方が早く日が暮れるような気がする。こんなことは専門の先生に聞けばすぐに解ることなのだろうが、何れの季節でも、この日の暮れかかる何分かの間は、私は何故か好きで、柄にもなく空を見上げると、頭が空っぽになるような、静かな気持ちになる。逢魔が時、という古いことばが自然に脳裡をかすめる。蠱惑(こわく)的でさえある。
 所で、近頃の鎌倉の夕方で何が独特であるかと言えば、これはもう間違いなく犬の散歩である。犬を飼えば、朝晩の散歩は缺かせぬものだから、何も特筆することはないのだが、いやその種類の多いこと、これこそは流石鎌倉だと思う。先日、犬好きの家内の姪が来たので、一体どの位の種類の犬とまちで出会うか、質問してみた。立て板に水で、アッと言う間に20数種でた。
 ○ダックスフンド、シーズー、チワワ、ポメラニアン、マルチーズ、スコッチテリア、プードル(以上は小型犬で、今はやりの由)
 ○ビーグル、コーギー、フォックステリア、シュナウザー(以上中型犬)
 ○ラブラドールレトリバー、ゴールデンレトリバー、ピレネー、アイリッシュテイラー、ダルメシアン、ドーベルマン、シべリアンハスキー、シェパード(以上大型犬)
 まだまだこんなものではないらしい。姪自身の飼っているのは、バゼンジー、というのだそうで、全くほえない犬、他に一匹鎌倉で飼っている人がいるとか聞いたけど、会ったことはないそうで、かなり自慢の逸品のようである。今や鎌倉夫人のステータスは、飼犬にあり、のようだ。高齢者の多い鎌倉の家庭だから、子供たちは大概別世帯になってしまい、老夫婦だけの日常はペットが生き甲斐なのだろう。少子高齢、鎌倉市の現状からみると、この名犬たちの存在も、象徴的と言える。
 それに引換え、ジョギング姿の中高年者が少なくなったように思えるのだが。ジョギングよりウォーキングの方がよい、という説を聞いたような気もするが、ジョギング人種が高齢化でバテて、次なる世代が少なくなったのか、印象に過ぎないから、何とも言えないが、白髪の中年紳士が短パン姿で、眞剣な顔で走っていたのも、清々しい鎌倉のまちの風情だった。
 どちらも、鎌倉ならではの風景だと言えよう。
 
 

山内 静夫
(鎌倉文学館館長)

鎌倉ケーブルテレビ広報誌
「チャンネルガイド」
平成17年1月号掲載
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