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鎌倉の散歩道 ・・・・・・39

鎌倉文学散歩 (10)

− 鎌倉山の文人を訪ねて −

 集合場所の深沢にある湘南記念病院前に5人が集まり、すぐスタートです。 山のほうに少し進むと市内でも数少ない田んぼが見えます。 かなり高齢の方が耕しているということですので、これから先稲が見られるのはそう長くはないかもしれません。
 突き当たって左に行くと、左に石段があり、三嶋神社です。笛田の鎮守です。 本殿手前の木の枝に、七五三の絵馬が掛けられていました。 その先、笛田運動公園に上る辺り、ミモザが5本咲いておりカンヒザクラや土佐ミズキも花をつけていました。

田園風景 三嶋大社
▲ 田園風景 ▲ 三嶋神社

 さらに進むと夫婦池です。 池の周囲の回廊や向こうに遊歩道が整備されていました。 30年くらい前、子どもを連れてクチボソを釣りに来たことがありますが、今は、釣るなと標識が出てます。 坂が急になる左手辺りでしょうか、小説家、児童文学者の北畠八穂(1903〜82)が、23年頃から二階堂から転居して、没年まで居住したのは。 女高生時代にカリエスを患っています。 『ジロー・ブーチン日記』『悪たれ童子ポコ』ほかがあります。

夫婦池1 夫婦池2
▲ 夫婦池1 ▲ 夫婦池2

 その少し先の右手には、『炎環』で直木賞、『氷輪』で女流文学賞、『雲と風と』で吉川英治文学賞を、さらには、歴史小説に新風をもたらした功績で菊池寛賞を受賞した永井路子(1925〜)が、昭37年から平成13年まで住んでいました。 名誉市民にもなっています。 その反対側には、歌人、作家の尾崎左永子(1927〜)も昭和55年から住んでいます。 59年『源氏の恋文』で日本エッセイストクラブ賞を受けています。 『鎌倉もだぁん』は、「いつのまにか二十年近くこの街に住んで、今の私は、生まれ育った東京よりも、この鎌倉の方が好きになっている」と書き出している現代鎌倉賛歌です。 この3人の女流作家は、同時期に住んでいたこともありますので、交流などあったでしょうか。 急坂を上りきるとバス道にぶつかるので右折します。

喫茶店 棟方版画美術館
▲ 喫茶店 ▲ 棟方版画美術館

 喫茶店を左に入ると、「棟方板画美術館」があります。 6月下旬まで「二つの東海道棟方板画」が展示されています。 この日は休館でした。 菅原通斉が住んでいた?建物は取り壊され、整地されて売り出されていました。 このバス道は、「かまくら山さくら道」とも呼ばれ、別荘地として開発された頃植えられたサクラも、ようやく老いたりという風情です。 道端に植えられたサクラソウが咲いていました。

 道が右に曲がる辺り、左側に、佐佐木信綱の歌碑があります。 歌碑がある所に住んでいた弟子の要望により詠んだそうです。

 ・ 日ぐらしに見れどもあかずここにして富士は望むべし春の日秋の日    佐佐木信綱

いま、竹林が鬱蒼として、富士は望むべくもありません。

 その先、右手の小高い辺りでしょうか、『もめん随筆』で知られる森田たま(1894〜1970)が昭和19年から27年まで住んでいました。 長編『石狩少女』、短編集『招かれぬ客』。参議院議員を6年務めたとか。
 鎌倉山ロータリーを江ノ島方面に下ることにしました。 道が右にカーブする手前の細道へ入ります。 この辺り、かなり開けています。 バス道に合流する手前に、地殻の変動で岩盤が裂けたような細い切通しがあります。 通行止めとなってます。

鎌倉山 ロータリー
▲ 鎌倉山 ▲ ロータリー

 右に下ると、膝が鎖で動くようになっている像があることで知られる「鎖大師」青蓮寺が見えると、右の岩盤にトンネルがあります。 そこをくぐって進むと手広の住宅地にでました。 山を背にした住宅の庭に、4畳半の住まいを提供された山崎方代の旧居があったそうですが、今は、山梨文学館に移築されているそうです。

「方代艸庵」を提供した、鎌倉で中華料理店を営む方の庭に石碑があり

・ こゝらあたりは相州鎌倉郡字手広草庵の札下げて籠もりたり 方代

と刻まれてました。深沢の商店街に出て、昼食後、散会となりました。

青蓮寺 方代石碑
▲ 青蓮寺 ▲ 方代石碑

方代ファンへ(補遺)

3月14日、鎌倉文学館で文学講座「山崎方代」が開かれ2人の編集子が聴講しました。 方代の略歴や20首以上の歌の解説がありましたが、「方代研究」という雑誌が発行されていました。 編集はこの日の演者と同じ瑞泉寺の住職で歌人の大下一真さんでした。 A5版で30ページくらい年2回発行されています。 最新は42号です。

宝戒寺近くにある和菓子屋さん「美鈴」では、方代の歌をつけた和菓子を毎月、販売しています。 三月は「わらび餅」でした。 この店のご主人が作る和菓子を見て作った歌で、自筆をコピーしているとか。
方代さんは、瑞泉寺に行く途中などに度々、この店に寄って、お酒を飲んだり、ご主人、お母様たちと話したり、そして時には、田谷に皆で行き、近くで菜 の花を摘んだり鍋をしたりして食べた、と店の奥様からうかがいました。

わらび餅 方代の歌
▲ わらび餅 ▲ 方代の歌


制作:亜郁/りんでん/太郎  協力:ひろさん

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