関東大震災の鎌倉 その30

―東京市及び神奈川県下の被害概況(4)―

県下の被害(3)
郡部(2)
△中郡
 秦野町では火災が発生し、水道が断水したため消火用水が使えず、乳牛(ちゅうし)・上宿・中宿・下宿・片町・下曽屋の各町237戸を焼失しました。このほか全壊は351戸、半壊は1,457戸で、死者21人を出しました。
 平塚町は6戸を焼き、海軍火薬庫も22棟を焼失しました。その他全壊1,387戸、半壊911戸、死者275人を出しました。相模紡績会社平塚工揚では、全壊と共に従業員及び寄宿舎の居住者160名が圧死しました。
 大山町では、地震後の9月15日の大雨により御料地(ごりょうち)内で崩壊が起り、山津波を起したために140余戸が流出あるいは埋没して、登山沿道の市街は壊滅しました。
△足柄上郡
 松田町は全壊302戸、半壊355戸、死者13人。
 曽我村は全壊383戸、半壊46戸、死者43人。
 この2町村の倒壊率は全戸数の9割に当り、全滅に等しい惨状を呈しました。
 中井村字境と中郡南秦野村今泉との境界で約30,000uが陥没しました。その深さ約15m。また、境地内も約10,000uの部分が深さ12〜15m陥没しました。
△足柄下郡
 小田原町は横浜・横須賀市に次いで、被害は激甚を極めました。火災が発生し、同町の目抜き通り幸町1丁目より4丁目までの全てと、緑町・万年町・新玉町・十字町の一部を焼き払い、全町の3分の2が焦土と化しました。
 当時、同町は防火施設として早川の下流大窪村板橋から源水を流入して、町の主幹通路に水道を設けて引用していました。地震と同時に断水し、そのため御用邸(小田原城)前の御濠や井戸水も使用しましたが、延焼は防げませんでした。なお、同町の全壊は1,740戸、半壊は1,304戸、死者179人。焼失戸数は2,268戸で、焼死者219名。行方不明者9名でした。
 真鶴村は全戸数653戸の小漁村ですが、震災に次ぐ火災のため、その過半365戸を焼失しました。海岸では高さ約6mの津波が襲来し19戸を流失。その他埋没3戸、全壊95戸、半壊171戸、死者行方不明者共116人で、全村が壊滅しました。
 片浦村は根府川の上流約6kmの箇所で山津波が発生、海岸に向って激しい勢いで倒木や土石を押し出しました。これによって川岸の樹木はほとんど押し倒されて跡をとどめず、下流の根府川集落を埋没もしくは海に流し、死者80名を出しました。この時、根府川駅に停車中の客車1列車は乗客もろとも海中に落下しました。また、同村米神集落も山津波のため約半数の30戸が埋まり、約50名が死亡しました。同村の被害件数は焼失3戸、埋没59戸、全壊102戸、半壊177戸で、一村ほとんどが壊滅して356人が死亡しました。
 国府津町は、全壊279戸、半壊398戸、死者39人。
 足柄村は、全焼3戸、全壊911戸、半壊909戸、死者82人、行方不明者17人。
 酒匂村は、全焼2戸、全壊611戸、半壊291数戸、死者57人。
 温泉村の内、宮の下は火を発して30戸を焼き、早川村も31戸を焼失。
 岩村は津波に襲われ、全戸数245戸の内59戸を流失。
 吉浜村鍛治屋の幕山は3ヶ所約200,000uが崩壊して蝦治屋川を堰き止め、約30アールの広さの大池を生じました(大震池)。堰き止められた水は堆積した土石の間を流れ、土石が崩壊すれば下方の集落は埋没・流失する危険にありました。
 早川流域の箱根山はいたるところで崩壊し、森林を埋め樹木を折り、流れを堰き止める等山容や水態が変貌しました。また、登山電車は破壊され道路は埋まり惨状を呈しました。
 熱海線の線路は飴のように屈曲し、トンネルはつぶれ、橋は落ちて、復旧困難と伝えられました。
△愛甲郡
  厚木町は大手町・天王町・本町・仲町・旭町等240戸を焼き、県立実科高等女学校と厚木繭糸取引所は、2日になって焼失しました。
△津久井郡
  郡内を通じて33名の死者と2名の行方不明者を出し、320戸の家屋が全壊・半壊しました。うち被害が多かったのは、鳥屋村が全壊9戸・埋没7戸、青野原村が全壊10戸、青根村が全壊12戸、牧野村が全壊9戸等でした。


『鎌倉震災誌』(昭和5年 鎌倉町役場)の記載内容から

浪川幹夫


『大正十二年 大震災記念写真帖』昭和6年 山田商店 
写真1 (『大正十二年 大震災記念写真帖』昭和6年 山田商店)


『大正十二年 大震災記念写真帖』昭和6年 山田商店 
写真2 (『大正十二年 大震災記念写真帖』昭和6年 山田商店)

 今回をもちまして、私が担当しました「知られざる鎌倉探索」は終了させていただきます。長い間ご覧いただき、誠にありがとうございました。

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