鎌倉にゆかりのある方にお話を聞く…第29回 My 鎌倉
今回のゲスト
中森晶三さん(観世流能楽師 鎌倉能楽舞台理事)
 近代薪能の開拓者と評価されている中森さん。現在は全国163カ所で定番のイベントとして行われている薪能を初めて実践なさった方です。現在は鎌倉能楽舞台を開き、鎌倉という土地に能という伝統芸術を根付かせました。その中森さんに、なぜ鎌倉という街で能が受け入れられたのか、その秘密を伺いました。

「鎌倉で楽しく生きる」

 武蔵野で生まれた私は、両親の病気療養のために昭和24年にこちらに越してきました。戦災に遭ったいとこと住むうち、その連れ合いの人が女性ながら能の開拓者とも言えるような人で、様々な工夫を凝らして能の世界に風穴を開けた人でした。
 私も能に興味があり手ほどきを受けたのですが、しばらくしてその女性が結核を患い、舞うことが出来なくなりました。そこで私が代稽古を請け負うようなことになったのです。当時、在学していた一高を卒業しても理科の教師なるのが関の山だと思い、私は本格的に能の世界に足を踏み入れたのです。
 普通、家元の家に生まれ能を学ぶと、まずは礼儀作法をたたき込まれます。が、私は能の世界の常識や習慣を身につけずに実技のみを修得したから、よく「変な玄人」と言われました。
 そんな「変な玄人」である私には、従来の能のシステムに大きな疑問がありました。それは、能の観客に対する考え方でした。従来の能では、発表会などの切符は、それぞれ出演する家元たちのお弟子に売ります。いわゆるノルマというものです。それではあまりにも閉鎖的ですし、芸能という観点からみても、おかしな話です。能には、舞いたいと思って入門したお弟子以外にも、必ず観客がいるはずだ、と私は思っていました。能は面白いものなのですから。
 そんな私の考えを実践に移す好機が、昭和33年に訪れました。それまで続いていた鎌倉カーニバルがなくなってしまい、次の催事が決まるまでワンポイントリリーフで能をやらないかというお話が観光協会からきたのです。そこで私は薪能を提案しました。その試みは大成功で、毎年動員数が増えていくことになりました。
 この薪能の成功には、ふたつの要因があると思います。ひとつは、鎌倉カーニバルのワンポイントリリーフという「天の時」です。そういう舞台が用意されていなかったら、薪能というものを皆さんにお目にかける機械もなかなか訪れなかったでしょう。そしてもうひとつは鎌倉という「地の利」です。これについては、もう少し後でお話します。
この薪能の開催と平行して、私は鎌倉に常設の能楽舞台を作ろうと計画しました。それまで借りていた土地を買い上げるために、小説「芝桜」のように、いきなり県のお偉いさんの所を訪ねたり、市長や県会議員に無理なお願いをしたり。可能な限りの手段を使って実現に漕ぎ着けました。
 そのように能楽舞台の開設に夢中になって理由は、先ほど触れた鎌倉という「地の利」にありました。鎌倉は文化都市です。一般にそう言われるとき、鎌倉に多くの文化人が住んでいたことを指すようですが、私は違うと思います。実際、鎌倉にお住まいの文化人は「一流の物なら東京に出ていって見る」と考えていらっしゃった。それに比べ、普通の人々の意識の方が進んでいました。東京には気軽に行けないけど、鎌倉に能があるなら見てみたい、という声が多かったのです。その考えが現れた姿が鎌倉薪能の成功だったわけです。小さな地方都市でありながら、住民の文化度の高さが、すなわち鎌倉という「地の利」だったのです。  開設した鎌倉薪能舞台では、お陰様で多くの演目を定期的に打たせていただいています。お客様も大勢足を運んで下さいますし、これは私の「能にはお弟子だけではなく、ちゃんと観客がいる」という考えが正しかったことを証明してくれています。一時期、3年間で200カ所ほどの県下の中高校を回って学生さんたちに能をお見せしてことがあります。それによって、能という伝統芸能に興味を持って貰いたっかたのです。その経験から、能を披露する前に解説をし、終わった後で質疑応答をするといった、今までにないスタイルを考え出しました。もしかしたら、これも観客の方が多く詰めかけて下さる理由のひとつなのかもしれません。
 どんな土地でも、能という特殊な芸術が受け入れられるとは思いません。もともと能がなく、その後生まれた土地は鎌倉だけです。ですから、私は鎌倉という土地に誇りを持っています。この土地で能を舞える幸せを噛みしめています。
鎌倉能舞台三十周年記念「乱能」

日時:平成12年2月23日(水)午前11時始
場所:国立能楽堂(JR千駄ヶ谷徒歩10分)
入場料:5,000円(全席自由)
<乱能とは>
   能はシテ方(能の主役、ツレ役、子方、地謡、後見を勤め、原則として 興行を司る)、ワキ役(ワキ、ワキツレ)、囃子方(笛、小鼓、大鼓、太鼓の四役)、狂言方(狂言の演者の他、能の中にアイとして参加)の三役七業種に厳格に分かれ、他の職種を兼ねることは絶対にありません。  それを初心、童心にかえって、役を全部取り替えて演ずるのが乱能で、もちろん人の芸は舞台の上で十分見ているし、批判のできるわけですがさて自分でやっているとなかなか思うようには参りません。  本職が舌を巻く程の上手もあれば、抱腹絶倒のウルトラ珍芸もあり、いわば楽屋内の学芸会で、関係者や身内の人にとっては大変に楽しい催しです。
 ただ、現在は三役の人たちが物凄く忙しくて、なかなかこういった「遊び会」をやっている暇がありません。今回は鎌倉能舞台三十周年記念ということで、ご無理を言ってお付き合い頂き開催できることは大変名誉のことと感謝に堪えません。
 とにかくお気楽にお遊びにいらしてみてください。
お申込、お問合はお電話で TEL.0467-22-5557 鎌倉能舞台まで
鎌倉市長谷3-5-13  http://www.nohbutai.com
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