鎌倉にゆかりのある方にお話を聞く…第18回 My 鎌倉
今回のゲスト
笠置康子さん(鎌倉市太極拳協会理事長)

「すべてが溶け合う公園の朝」

 私が皆さんにお薦めしたいのは、笛田公園の朝です。私はこの公園が出来て以来、太極拳の練習に使わせてもらっています。中国では、太極拳の套路(とうろ)、順番を覚えるために公園を利用します。体育館や総合格闘技場などといった施設は沢山ありませんし、何しろ人口が多いからでしょう。私が初めて中国に渡ったのは今から17年ほど前、太極拳を初めて2年目のことでした。今の中国と違い、当時は国内に仕事が少なかったので、若者が一晩中何をするでもなく、歩いているような状態でした。公園では、その若い人たちが、自分のストレスを発散するために、激しい太極拳をやっていたのです。それをまた子供たちに教える。その回りでお年寄りたちが、ゆっくりした太極拳をしていました。動きの緩急、そしてそこにいる人たちの年齢層、その多彩な構成物が公園のひとつの景色になっていたのです。今では、土日以外はほとんど若い人の顔を見ることが出来ません。仕事が増え、子供たちに対する教育熱心な風潮に拍車がかかって、平日の日中に公園で太極拳をする暇がないのでしょう。でも、この景色こそが、中国で最初に目にした、身近な太極拳の姿でした。ですから、私の中で強烈に印象に残っているのです。そして、この景色を笛田公園で見ることができました。といっても、笛田公園で多くの人が太極拳に興じているというわけではありません。笛田公園というのは、高台に作られた都市型の総合公園です。総合グランドと野球場とテニスコートがあり、その外周を散歩ができる遊歩道が巡っているという作りになっています。夜が明ける頃から、人が徐々に公園にやってきます。まずグランドで走る人。それから自分でトレーニング、ストレッチなどをする人たち、競歩をする人、その外側を散歩する人たちが、めいめいのスピードで足を動かしています。それぞれのスポーツに汗を流している多くの人々が、高低差のある公園の中で、それぞれちゃんと独立した三層を構成しているのです。一番高い位置にある運動場では、自分の好きな動きをしている人たち、その下は早朝六時頃から始まる野球試合の歓声が聞こえ、一番下のテニスコートは、人影もなく、ぽっかりとコートが遠くの景色の中に浮いているように見え、眺めているこちらが今どこにいるのか分からなくなるほど、落ちついた不思議な気持ちを引き起こします。これらを丸く山が取り囲み、南には遠く富士山まで見通せる景気が広がっています。この朝の光景は、いくら言葉を尽くしても、伝わりきれないかもしれません。それぞれの場所と人たちが、一瞬の間だけ渾然一体となって、しかもそれぞれに、独立した顔をもって存在していること。これだけ美しく躍動感に満ち、そして静謐でもある風景を、私は他の場所で見つけることが出来ません。笛田公園は、あの時中国で見た公演の風景を回灯籠のように思い起こさせてくれます。時間旅行ですね。
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