ボランティア

8月の絵  女優、中井貴恵。本名、中澤貴恵子、小学校四年と幼稚園年長組と二人の女の子の母親である。今、彼女はあるボランティア活動に眼の色をかえている。一ヶ月程前、朝日新聞に載ったからご存知の方もあるかも知れないが、「大人と子供のための読みきかせの会」をつくり、昨年十月より活動を始めた。先日、鎌倉のロータリークラブで、その公演があった。あった、というより私が頼んで来てもらった。
 彼女のお父さんとは、仕事仲間であり、親友だった。彼、佐田啓二、俳優として充実しきっていた三十八歳の時に、不慮の死を遂げた。昭和三十九年八月十七日、三十五年前のことである。その時貴恵ちゃんは四歳、父の死を悲しみと提えることも出来ないおさな子であった。以来、未亡人となった麻素子夫人と貴恵、貴一姉弟の一家と、長い、浅からざるお付合いをしてきた。
 その日は「きいろいばけつ」という童話が演目だった。彼女が朗読をし、ピアノと琴、尺八という和洋楽器による音楽が流れ、舞台中央に大きな絵本、というより紙芝居と言った方がイメージがつかみやすいかも知れない。その絵本を朗読に合わせてめくってゆく、そのアンサンブルが、物静かな感情の起伏を生み出す。紙芝居に似たその絵本が、実に頭のいい工夫がこらされていて、しかもすべて主婦たちの手作りと言う。三十分足らずの、その間の時間の流れは、ロータリークラブの、もう童話などと全く縁のない中年、老年男性たちと、彼女の是非にとの希望で招待した鎌倉保育園の幼稚園児たちに、同じように得も言われぬ感動、涙を誘った。貴恵さんの朗読はうまくて当り前、そんなことではなく、母親、中澤貴恵子としての願いのようなもの、グループの人たちも同じように子の親として、自分たちに何が出来るか、今の子どもたちにこんなことをしてあげられたら、その純粋さが心を打つのだろう。ボランティア全盛の時代だが、この「大人と子供のための読みきかせの会」の活動は、一味も二味も違う、未来をしっかり見据えた活動だ。公演の申込みが殺到しているという。
 中井貴恵、いや中澤貴恵子さんに拍手を送りたい。

鎌倉ケーブルテレビ広報誌
「チャンネル鎌倉」
平成11年8月号掲載
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