豆腐のはなし

1月の絵  せちがらいご時世で、暗い話ばかり耳にするので、正月ぐらいは明るく食べものの話でも書くとしよう。
 としのせいもあろうが、目下の好物は豆腐である。豆腐は京都と言う人も多く、たしかに嵯峨野釈迦堂門前の“森嘉”の豆腐、油揚げ等は絶品だが、私は自信をもって、豆腐は鎌倉と高言して憚らない。家が近いせいもあり、又私の好みの問題だから、他のお豆腐さんにお許しを願って、扇ヶ谷寿福寺手前の“ますだや”さんのもめん豆腐なら、毎食でもいやと言わぬ。豆腐は、夏は冷奴、冬は湯豆腐ときめており、薬味はきざみ葱と生姜だけ。たれは生醤油でよいが、きのえね醤油のめんつゆも悪くない。

 笑われるかも知れないが、今夜は豆腐があると思うと、外食するのが惜しくなる。土日は、タッパーをもって自分で買いに行く。一徹で、無口なご夫婦だが、もう三、四年通って、やっとことばを交わすようになれた。
 今日は見えると思ったから、だんなさんの分だけ、二丁とっておきました、なんて言われると嬉しくなってしまう。午前中に売り切れてしまうので、買い損なった時は、小町通りの肉屋でも買える。家内は、肉屋さんでお豆腐だけは買いにくいので、ついでにお肉も買ってしまう、とこぼす。別にそう恰好つけることもないと思うのだが、これも女性心理というものか。おかげでわが家の冷凍庫は、恵まれない牛肉や豚肉で満員の盛況である。

鎌倉ケーブルテレビ広報誌
「チャンネル鎌倉」
平成6年1月号掲載
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