大寒

2月の絵  大寒ということばがある。昔の暦の二十四気の一つだそうで、今の暦で言うと一月二十日頃から二月四日の立春までの約二週間ぐらいがそれに当たる。今年も正月を過ぎてからやっと、今朝は冷えるな、と感ずるようになったが、それにしても芯から冷える、駅のプラットホームに立っていても足踏みせずにはいられないような、線路の枕木が霜で真っ白になるような、そんな寒さはこの七、八年湘南地方ではお目にかからない。鎌倉に住んでもう半世紀を超えるが、小学校に通っていた頃の寒さは、とてもこんなものではなかった。足に霜やけが出来て、それが暖まってくるとむず痒くてたまらず、教室で靴を脱いで授業中ボリボリ掻きつづけていたことを覚えている。だいいち毎年四、五回はスキーが出来るくらいの雪が降ったものだ。

 寒行というのがあった。冷えきった夜気の中から、うちわ太鼓の音が、ドンドコドンドンドコドコと、南無妙法蓮華経のお題目を唱える声と共に聞こえてくると、やがて二十人から二十五人位の白い装束の一団が現れる。吐く息が白く闇の中に舞っていて、子供心には何か恐ろしい集団のように思え、窓ガラス越しにそっと窺き見しては、家の中へ乗り込んで来たらどうしようかと気が気でなかった。

 寒さもそんな冬の思い出もどこかへ消えてしまって、季節を味わうことが少なくなった。

 地球温暖化のせいかどうか知らないが、つまらなくなったことだけは確かだ。

2月の絵
鎌倉ケーブルテレビ広報誌
「チャンネル鎌倉」
平成5年2月号掲載
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