八つ当り

 半年位前になるだろうか、「谷戸の風」もあんまり明るい話題がないね、と言われたことがある。誰に言われたかは忘れた。成程そうかもしれない。俳句などで嘱目(しよくもく)ということばがあるが、きめた季語を使う兼題とか席題でなく、即興的に目にふれるものを吟ずることをいうようであるが、それに近い感じで、社会で起る出来ごとを、白分がどう感じるか、それと共に、白分の過去のことや、運想といったものが材料になることがかなりある。白分白身の日常生活の範囲がだんだん狭くなるので、白然と新聞の一面の記事が気になってしまう。言っても詮なきことと知りつつも、私にはどうも見すごせないような性分があって、これこそ老人特有の"余計なお節介(せっかい)"だが、つい白分の気持を書いてみたくなる。従って、明るい話題にならないという、冒頭の友人の忠告に対する、廻りくどい弁明なのである。
 いま、これを書いている時点では、ライブドアグループの証取法違反による堀江社長始め幹部役員の逮捕というニュースでもち切りで、さしもの耐震強度偽装事件も、恰好(かっこう)の主役小嶋社長の証人喚問という名場面まであったのに少し立ち消え気味になってしまっている。事件そのものの中身は、社会的に極めて重大な要素をもっていて、許されるべきものではないが、両方とも監督すべきチェック機関の社撰(ずさん)と怠慢も間われなければならないと思う。
 人間は、見た目というのがかなり重要な判断のポイントになるようだ。特に女性はその傾向が強いように思う。こんなこと書くと家内に叱られそうだが、耐震偽装の問題が報じられてすぐ、悪いのは小嶋よ、ヒューザーよと極めつけ、姉歯なんか悪いにしても小物だと、見た目で言っていたが、当ってなくもない。喚問の際の開き直りは、一筋縄のものではなかった。何事も正直に答えます、と宣誓して、あのすっとぼけた証言拒否は、国会の委員会も議員さんも、ナメられているのが国民の目に、(テレビ中継で)映っているのに、お決まりの注意を与えるだけで、同じように質問をしては拒否され続けているのは、どういうことか。白らの手で、国会の尊厳を傷つけているとは思わないのだろうか。証言拒否というのがルール上あるにしても、あれを許すのであれば大変な悪例を残す。それはそれとして、この間題の本質は看過できない。罪なき市民が平穏に生きることを、悪質な設計士や建築業者が、正常な行為と見せかけて奪い取るようなことが行われる国があってよいのだろうか。何かの記事で、買った側にも幾分の責任があるようなことを見たが、マサカと耳を疑う。基準の20%以下とかいうものが、審査機関でチェック出来ないのもひどすぎる。又ブリ返すようだが、小嶋の証言拒否は後で迫及すると言っていたが、いまのところ何の気配もない。もはや時代は次の大事件に移っている。
 再び見た目のはなし。フォーマルもカジュアルも関係なし、Tシャツ一辺倒という入と、キチンとスーツを着た人とでは、ご婦人層の評価が違う。個入名は差し控えるが、後者はプロ野球の球団のオーナーと言えばわかりやすい。どんな高級な、ブランドもののTシャツだろうと、時と所を心得るのが、品格、品性というものだ。東大中退の秀才で、溢れる才能と漲る野心で成功を収めた時代の寵児の今日を予測できた入は少いだろう。成功と失敗は紙一重で、ギリギリの壁の上を歩いてどちら側へ落ちるか、本入以外にはわかるまい。いち早く、早トチリだった、と平然と言った経団連の奥田会長はさすがである。選挙とこの間題は関係ないとうそぶき、やっと総裁としての不明のそしりは甘んじて受けると発言したのはいいが、返す刀でマスコミ批判したのは、子どもじみて少々情けない。事件の進展が分らないので、これ以上のことは言えないが、小嶋にも堀江にも共通しているのは、驕(おご)りであろう。「驕る平家は久しからず」とは、言い得て妙である。
 このご両人を同列に断ずることに、多少忸怩(じくじ)たるものを感じるが、白家用飛行機を所有するという共通点があるのでつい…。
 所詮、八つ当り、の諺(そし)りは免れまい。
山内 静夫
(鎌倉文学館館長・KCC顧問)

鎌倉ケーブルテレビ広報誌
「チャンネルガイド」
平成18年 3月号掲載
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