執 念

10月の絵  世の中に、マニア、という人は、数限りなく広い分野にわたって居るものだが、テレビ映画の時代劇の、それも30数年も前に1回放送されただけの1作品への思いを募らせ、復活祭と称して上映会とトークショーを実現させた男がいる。
 その作品は、昭和42年10月から翌43年9月まで約1年間、TBS系列で放送された時代劇シリーズ「風」というテレビ映画である。製作会社は松竹で、当時テレビ部でプロデューサーをしていた私も、シリーズ41本の約半数位の作品を担当していたので、当日参加することにした。台風9号とやらの影響で、蒸し暑い雨もよいの、8月中旬の日曜日だった。
 そもそも、この仕掛人であるS君という人から突然電話を貰ったのは半年以上も前の事ではなかったか。なんとか「風」という作品をもう一度世に出したい、力になってほしいとのことだった。そのタイトルを聞いて懐かしく数々の思い出が蘇ってきたが、白黒作品もであるし、30数年も前のテレビ映画に、今日どれほどの商品価値があるのか、半信半疑であった。S君は、それから後精力的に動き、松竹テレビ部にも働きかけて、ビデオ化することに漕ぎつけた。「風」の主役は栗塚旭君で、当時は「新撰組血風録」の土方歳三役で一躍人気スターとなり、この番組も、栗塚君が出演するということで実現したといっても過言ではなかった。
 会場の鶴見会館ホールへいってみると、ホール入り口の前に人が溢れていて、大袈裟でなく人をかきわけて受付へいった。いかにも時代劇ファンといった中年以上の男性から、映像マニアの若者、栗塚ファンの女性と客層もひろく、約400人近くのひとが客席の半分以上を埋めていた。正直な話、驚いた。シリーズの第1話と第4話が上映され、そのあとステージでTBSの監督、プロデューサー、メインの脚本家、栗塚旭、土田早苗、東山明美等のトークショーが行われた。私もその末席に並んでいて、客席との一体感を強く感じた。何千何百とあるテレビ映画シリーズの中の、一つのシリーズ作品にすぎないのに、今この客席にいる人たちにとっては、何物にも代え難いそれぞれの心の青春そのものだったのだろう。
 私が受けたその日の爽やかな感動は、S君の執念が呼んだものだと思った

鎌倉ケーブルテレビ広報誌
「チャンネル鎌倉」
 平成12年10月号掲載
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