二代目 口上

4月の絵  生まれて一ヶ月たつかたたないうちに、私はこの家に貰われてきました。きょうだい七匹一緒に段ボール箱に入れられて、八幡さまの境内のどこかに捨てられていたのを、近くにお住まいの猫好きな奥さんに拾われ、そこから又私だけきょうだいたちと離れて、この家で暮らすことになったそうです。申しおくれました。私はメスの子猫で、ご主人さまの老夫婦からは、トラとよばれています。何だか古くさくて、やぼったい名前で、私は気に入らないのですが、何でも以前にこの家にいた猫がトラという名で、私がその猫に毛並みや毛色がよく似ているのだそうで、それが私が貰われることになった最大の理由らしく、つまり正確に言えば、トラ二世、二代目ということになります。先代のトラは、十年程前にこの家の隣にあった空き家の縁の下で生まれた生ッ粋の(?)野良で、それがこの家の奥さんのミルクで命を拾われ、やがて家の中で飼われるようになり、随分かわいがってもらったそうで、三年前病気で亡くなった時は、もう二度と猫は飼うまいとご主人ともども思っていたのですが、私があまり可愛かったからでしょうか、その禁を破ってしまったとのこと、これも運命、めぐりあわせというものでしょう。
 この家へきてから半歳が過ぎました。一キロもなかった体重が二キロ半になりました。初めは六、七十糎巾のせまい廊下で暮らしていましたが、今では家中どこでも自由に動き廻っています。障子に穴をあけたり、襖に傷をつけたりしたこともありましたが、去年の暮れに、ご主人夫婦が馴れぬ手つきで、障子を貼り替えていたのを見てからやっていません。何しろまだご主人たちの言葉がよくわからないので、叱られてばかりですが、それは仕方のないことだと思います。でも、とても可愛がってもらっていることはよくわかります。一つだけ言わせて頂くと、この家のご夫婦は、ご主人のお勤めは別としても、出掛けることが多く、留守番ばかりさせられます。だから、ご主人たちが揃って家にいる時は、つい嬉しくなって駆けづり廻ったり、手を噛んだりしてしまうのです。
 それ位大目に見てください。人間ならまだ六ヶ月の赤ちゃんなのですから・・・・・。 (S・Y)

鎌倉ケーブルテレビ広報誌
「チャンネル鎌倉」
平成12年4月号掲載
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