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時宗・来迎寺の縁起


時宗来迎寺の開基は、建久五年(1194年)源頼朝が己の鎌倉幕府の基礎となった三浦大介義昭の霊を弔う為、真言宗能蔵寺を建立した時に始まる。
(能蔵寺の名は、この付近の地名として使われていた)尚、開山上人は明らかでない。

おそらく頼朝が亡くなった後、現在の「時宗」に改宗したと思われるが改宗年代は不詳である。山院寺号を隋我山能蔵院来迎寺と号し、音阿上人(当時過去帳記載)が入山以後法燈を継承している。 能蔵寺から起算すると実に八百余年の歴史がある。

時宗の総本山は神奈川県藤沢市西富、藤沢山清浄光寺通称遊行寺と呼ばれている。開祖は一遍上人、今から七百年余り前文久十一年(1274年)、熊野権現澄誠殿に参籠、熊野権現から夢想の口伝を感得し、「信不信浄不浄を選ばず、その札を配るべし」の口伝を拠り處に、神勅の札を携え西は薩摩から東は奥羽に至るまで、日本全国津々浦々へ、念仏賦算の旅を続けられること凡そ十六年。
その間寺に住されることなく亡くなるまで遊行聖(ゆぎょうひじり)に徹した。教法の要旨は『今日の行生座臥擧足下平生の上を即ち臨終とこれを心得称名念仏する宗門の肝要となすなり』とある「念仏によって心の苦しみや悩みは、南無阿弥陀仏の力で救ってくださる」という教えである。

当寺の本尊阿弥陀如来(弥陀三尊)は三浦義昭の守護佛と伝えられる。平成十一年十月十二日から平成十一年十一月二十三日まで皇太子殿下ご成婚記念として東京国立博物館に新しく 建設され平成記念館の開館を記念し、特別展「金と銀 輝きの日本美術」が開催され当寺のご本尊も展覧され拝観者の皆様から着衣の素晴らしい截金文様と、高い評価を得ることができた。

また、鎌倉三十三観音菩薩札所十四番で子育て観音をおまつりしてある。この観音様に念ずれば、必ず知恵福徳円満な子どもを授かるとして、昔から多くの信者に信仰されている。
以前、当寺の山頂(本堂裏側の山頂)にこの観音堂があったが昭和十一年、国の指令により「敵機の目標になるから」という理由で取り壊された。この鎌倉旧市街および海が一望でき、長谷観音と 相対していた。

当寺は明治五年十二月二十一日夜、材木座発火の類焼に遭い寺宝はことごとく消失してしまった。「相模風土記」によると「宗祖一遍上人像、三浦義明の像有り」とあるが現存しない。なお、来迎寺明細帳によると、明治十六年五月、当寺四十一代、「野本廓善」和尚が単独で本堂兼庫裡を建立したとの記録がある。この建物は昭和十二年まであったが、諸般の事情で改築した。

これより先に当山四十五世「照雄」和尚の徳により三浦義明の像並びにこれ御安置する御堂を造立、昭和三十五年五月、義明七百八十年忌にあたり一族とともに供養した。 (この義明像は三浦一族に由縁のある彫刻家鈴木国策氏の献身的な奉仕によって見事製作されたものである)

しかし、この御堂も諸般の事情により取り壊した。将来境内整備が終わり次第再建する予定である。境内には義明公および多々良三郎重治公五輪塔(高さ2M)一説には義明公夫婦とも言われている。

また、応永、正長年銘などの寶匡印塔(数基鎌倉国宝間に貸し出し展示中)あり、この数七百余基を数える。「相模風土記」によれば、「三浦義明の墓は五輪塔なり、ここに義明の墳墓あるはその縁故知らざれど、思うに冥福を修せんがために寺僧が造立せしならん」とある。

義明は庄司義継の長男で平家の出で、平家の横暴腐敗した政治を正すため、源氏に仕え、時の世人挙げて平家に従ったが、ただ一人敢然として頼朝に尽力した。
治承四年(1180年)頼朝の招に応じて子義澄らを遣わしたが、石橋山の敗戦で帰郷途次、畠山重忠の軍を破った為、重忠らに三浦の 居城衣笠城を包囲された。
防守の望みを失ったので、義澄らの一族を脱出させて頼朝のもとに赴かせ一人城に留まって善戦したが、ついに陥落して悲壮な最期を遂げ、源氏のために忠を尽くした。

一方石橋山の戦いで平家に敗れた頼朝は、海路安房に渡って再挙を図り、関東各地の源氏家人の加勢を得、義澄と共に鎌倉に拠って策源地と定めた。後、征夷代将軍となり鎌倉幕府を創建したのである。
この国家大業の成就の陰には義明の先見の叡智と偉大な人徳によるところただいである。義明あって鎌倉幕府の成否は義明によって決したと断ずるも過言でない。

後に頼朝が義明あるいは一族に対する報謝の意が実に数々の温情の行業に伺われる。義明が後に「三浦大介百六ッ」と呼ばれる由来は頼朝が衣笠の満昌寺において、 義明の十七回忌法要を供養した時、義明がまだ存命して加護していてくれるのだ。という心からの事で自刃したときの八十九歳と十七年を加えた数と思われる。
私たちは、このような幾多の先祖の遺業、遺徳を懇ろに偲び、人生の心の糧として、何時までもこの行跡をたたえ続けて行きたいものである。

(来迎寺「時宗来迎寺縁起」より転載)


・・ 寺  宝 ・・

阿弥陀三尊(三浦義明の守護仏といわれている)
阿弥陀如来像
子育て観音(聖観音菩薩像)
三浦大介義明公座像
三浦大介義明公の墓
三浦大介義明公家来の墓




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