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英勝寺訪問記

2003年5月6日



江戸時代以来の由緒を伝えて現存する鎌倉唯一の尼寺で名高い
英勝寺を訪ねました。

今回は歴史研究家かつ英勝寺山門復興事業事務局長で檀家代表の
内海恒雄氏の案内で見学させて頂きました



英勝寺は、江戸初期の名建築が残っている寺院として有名です。
特に寛永十三年(1636)に建立されて寛永二十年に改築された仏殿、近世の鎌倉では唯一と言われる袴腰(はかまごし)付の鐘楼、精巧な細工の唐門、華麗な色彩を保っている英勝院の墓廟である祠堂(しどう)、現在復興を計画中で部材として保存されている山門など、すべて神奈川県指定重要文化財になっています。

仏殿・・・
仏殿は禅宗様を基本にしていますが、江戸時代初期の華やかさも表れているとのことです。
外観の特徴は、寺院建築に多い屋根の軒反り(のきぞり)が無いことで、このころの徳川家ゆかりの寺院にみられるのだそうです。
また蟇股(かえるまた)に十二の干支の動物が彫られていることも、仏殿ではあまり例が無いそうです。
軒先の斗(ます)と肘木(ひじき)も見事で、徳川家の関係の職人の腕の良さを示すとのことです。
  
仏殿の斗組み(又は斗きょう)干支の蟇股(かえるまた)
  • 左: 仏殿の斗組み(又は斗きょう)
  • 右: 干支(未=羊)の蟇股(かえるまた)

  • 扁額(へんがく)の号は「寶珠殿」(ほうじゅでん)。
    この扁額の周囲の彫りに朱が塗られていたのが残っています。
         
    仏殿の扁額内海氏と取材スタッフ
    仏殿の扁額内海氏と取材スタッフ

    入り口の扉の内側の引き落としの金具に蝉の形の金物があしらわれているのもあまり無いとのことです。
    内部の天井を支える柱は上下の端が丸くすぼまった形をして粽柱(ちまきばしら)とよばれていて、禅宗様の特徴のひとつだそうです。
    その上部は淡い色から濃い色までを段階的に変化させて彩色する方法「繧繝彩色」(うんげんさいしき)という技法で鮮やかに彩られています。
         
    扉の蝉型の金具須弥壇のボタンと唐獅子の彫物
    扉の蝉型の金具須弥壇のボタンと唐獅子の彫物

    ご本尊は阿弥陀三尊で、台座の蓮華座は2つに分かれる踏割り蓮華(ふみわりれんげ)とよばれる形で、阿弥陀如来が人々を救うために歩き出しているお姿を現しているのだそうです。三尊を横から見ると、直立でない前に進む躍動感があります。

    公開されていませんが英勝院像は優しいお姿で、江戸初期の女性像としては珍しく個性的なものだそうです。
    ご本尊のお姿や、建築的に興味深い構造が残っているのもさることながら、内部に素晴らしい装飾が残っているのは息をのむばかりです。

    天井には龍の絵を中央に、極彩色の天女に楽器や法具などの絵、水戸徳川家の三つ葉の葵の紋や太田家の桔梗の紋など、板壁には鳳凰の絵が描かれており、厳かななかにも尼寺にふさわしいやさしさが感じられます。本尊の後の来迎壁の裏側の板壁にも普賢菩薩と文殊菩薩の彩色の美しいやさしい像が描かれていました。
         
    水戸徳川家三つ葉葵と太田家桔梗の紋尼寺らしい鳳凰の絵
    水戸徳川家三つ葉葵と太田家桔梗の紋尼寺らしい鳳凰の絵

    また、「英勝寺記」という額が残されており、寛永十五年に民部卿法印道春(林羅山)が記したことが分ります。
    林羅山は江戸初期の儒学者で幕府儒官林家の祖。家康から家綱まで4代の将軍に侍講として仕えた当時最高の学者だったとのことです。

    林羅山の「英勝寺記」

    林羅山の「英勝寺記」

    ともかく、仏殿だけでも、外側、内側それぞれに歴史的にも技術的にも芸術的にも(もちろん宗教的にも)貴重な財産が残っており、取材子は圧倒され続けました。

    鐘楼・・・
    鐘楼は鎌倉では珍しい袴腰(はかまごし)といわれる様式です。

    山門復興事業・・・
    鐘楼の奥に山門の礎石が残っており、プレハブの倉庫が建っています。
    この倉庫に、「英勝寺山門復興事業」で取得された山門の部材が保存されています。
    英勝寺山門復興事業事務局では、みなさまのご協力をお待ちしているとのことです。
    (復興事業についてはこちらを参照してください → こちら
      
    英勝寺山門の礎石英勝寺山門の往時の姿
    英勝寺山門の礎石 英勝寺山門の往時の姿

    唐門・・・
    祠堂の前に唐門があります。
    唐門の輪垂木(わだるき)は十数本で屋根を支えていますが、唐門独特の弓形の曲線を一本の通しの木の加工で作りあげています。唐門にはいたる所に細かい彫り物をした素晴らしい細工がみられます。

    祠堂(しどう)・・・
    祠堂(英勝院の墓の前にある位牌を納めるお堂)は、中尊寺の金色堂のように鞘堂(さやどう)に納められているので、あざやかな色彩が色濃く残っていました。日光の東照宮などを思わせる色遣いだと思いました。
    最近の専門家の分析で、内部の須弥壇などは日光の東照宮と同じ技法ということが判ったそうです。

    祠堂の後方には、水戸光圀建立の英勝院の墓石があり、そのさらに後ろのやぐらの中には石像の阿弥陀三尊が祀られているとのことです。

    花の寺・・・
    英勝寺はまた、花の寺としても有名です。
    東国花の百ヶ寺の一つに数えられています
    祠堂そばのワビスケや梅で春をむかえ、シダレザクラ、ヤマブキ、ボタンがつづきます。
    また見事な百日紅もあり、春から秋にかけて花がとぎれることが無く晩秋の紅葉を迎えるのだそうです。
    訪問した5月初旬は、入り口のシランの紫と書院の軒先のシロフジが好対照をなし、クロバナロウバイやシャガをはじめとしてさまざまな花が咲き誇っていました。 小さな草花にもこまやかな心遣いが感じられ、さすが尼寺だと感心しました。

    ワビスケとトウカエデは樹齢三百年を越えると推定され、鎌倉市の天然記念物に指定されていますが、ワビスケはリスに皮をかじられ、リスを近づけない対策が取られています。

    五月の花・・・写真をクリックすると拡大写真が見られます
    アヤメの仲間か タツナミソウ シラン クロバナロウバイ シロフジ カラー シラー
    アヤメの仲間? ・タツナミソウ ・シラン ・クロバナロウバイ ・シロフジ ・カラー ・シラー



    尼寺らしいところは、訪問した日に
    琵琶のお稽古の音色が境内に静かに流れていたところでも感じました。

    2時間にわたって内海様から説明をお聞きし
    室内で写真などを拝見したあと退去しようとした際
    ご住職がお顔を出され、ご挨拶しました。
    ご住職のお姿を見ていると、また別の花の時期に再訪したくなってきました。



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