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編集部員のリレー随筆(50)

全国 変わり種共同浴場(その5)

制作:ひろさん

ここでいう「共同浴場」とは、熱源が温泉で、誰にでも公開している(誰でも希望すれば入ることのできる)浴場をいいます。
主に全国の温泉場に見られますが、青森県の各市、長野県諏訪市、大分県の別府市や、鹿児島県鹿児島市のように市街地の至る所に公衆浴場として点在する都市もあります。
このレポートは先に書いた変わり種共同浴場の第五弾です。

目次
大湯温泉・アパート白山荘
湯ノ花温泉・石湯
別府市浜脇温泉・茶房たかさきの湯


○ エッ? アパートの風呂場が共同浴場? (秋田県鹿角市・大湯温泉)

秋田県鹿角市大湯温泉は十和田湖の秋田県側に位置するひなびた温泉地ですが、多くの共同浴場があります。
温泉場の例に違わず地区の住民が共同運営する共同浴場も4ヶ所ありますが、旅館の風呂場を公衆浴場になっている例もあります。ここで紹介するのは普通のアパートの風呂場を私営の公衆浴場として開放している例です。

アパート白山荘は何の変哲もない木造二階建てのアパートで、部屋数はおよそ10軒程度です。

アパート白山荘
(アパート白山荘)

アパートの敷地に入ると広い駐車場があり、アパートはその奥にあります。
玄関は普通のアパートより立派と云えば立派ですが、雪の多いこの地方では大きな屋根と二重になったガラス戸は通常の設備ともいえます。

戸の中には管理人室があり、おやじさんが公衆浴場の受付をしてくれます。
お風呂場は玄関から左手の廊下の先にある地階へのスロープを下がり、地階にいきます。
地階といっても大湯川の川原の方向は地形が傾斜しており、風呂場はその大湯川を見下ろす場所にあるので、明るく見晴らしも良いのです。


アパート入り口
 
地階へのスロープ
(アパート入り口)
(地階へのスロープ)

地階の廊下には男湯と女湯のドアが並んでいます。
入るとすぐに脱衣場で、脱衣場には木製の棚があるだけです。

浴室はコンクリート造のシンプルな物で、カランはありますがシャワー設備などは付いていません。

脱衣場
 
浴槽
(脱衣場)
(浴槽)

別角度の浴槽
(別角度の浴槽)

4〜5人が入れるコンクリート造の浴槽にはぬるめのお湯が張られていましたが、浴室全体がうすい硫黄臭に包まれているような感じで、お湯に入るとぬるぬる感が強くとても良いお湯です。

お湯は、薄緑色を帯びた透明なお湯で、ビニールホースで源泉がそそがれており、浴槽のお湯の温度調節は水道栓で行うようです。

湯船に浸かっていた年配の人に、なぜ近くにある、地区の運営する共同浴場に行かずに、白山荘に来るのか尋ねたら、ここはぬるめにうめても誰も文句を言わないからだと答えてくれました。

そういえば近くの地区の共同浴場は常連客が洗い場を占領し、床に寝転んで水道の蛇口をなかなか使わせてくれないので、非常に熱い湯でも我慢しなければならないという評判もあるようです。
地元の人でもそれをいやがる人が居たのでちょっと安心しました。

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○ エッ? 川原の石が壁にめり込んだ共同浴場? (湯ノ花温泉・石湯)

福島県南会津町の湯ノ花温泉は、のどかな田園地帯に、湯ノ岐川に沿って旅館と民宿が合計でも十数軒しかないひなびた温泉場ですが、なんと4軒の共同浴場があります。

この4軒の共同浴場のうち「弘法の湯」は管理人が居て入浴料を支払うのですが、他は入り口に料金箱を設置しているだけで、なんともおおらかな共同浴場です。

中でも石湯は、粗末な小屋が湯ノ岐川の川原に建てられており、なんと巨岩が小屋の壁にめり込んでいます。

湯ノ花温泉・石湯
(湯ノ花温泉・石湯)

巨岩を内部から見ると、湯小屋の中央に岩の一部が突出し、地元の人が奉納した旗がかかり、地元の人から大切にされていることが判ります。

巨岩を内部から見ると・・・
(巨岩を内部から見ると・・・)


この石湯は、浴槽は一つで、脱衣場も小屋の中に簡単な間仕切りがあるだけのシンプルな構造です。
源泉は浴槽の隅の溝から流れ込み、浴槽に入ってオーバーフローしており、お湯が熱い時はホースの水道水でうすめます。

浴槽
 
脱衣場
(浴槽)
(脱衣場)

お湯は57.6度の単純泉で、無色透明ですが、ほのかに硫黄臭が漂ってきます。
お湯の味は、渋くてすっぱ味があります。

自然湧出で川原に沸き出すお湯を見事に使っている浴槽に首まで浸かり、自分一人が異空間に居る様は何とも云えない愉悦の時間です。

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○ エッ? 家庭のお風呂が共同浴場? (別府浜脇温泉・茶房たかさきの湯)

大分県別府温泉は数多くの共同浴場があり、この共同浴場をキーとして地域振興を図っている土地柄なので、いろいろと珍しい共同浴場があります。

ここで紹介する「茶房たかさきの湯」は個人の住宅内の家庭のお風呂です。
場所はJR別府駅から徒歩15分ほどの朝見の住宅街の真ん中です。


茶房たかさきの湯浴槽
(茶房たかさきの湯浴槽)

たかさきさんは、リタイア後、自宅の別棟の応接室を喫茶店に改造し「茶房たかさき」を開店しました。
もともと、奥様が「花工房たかさき」を開いていたのですが、たかさきさんも奥様に倣って「茶房たかさき」を開店したわけです。

茶房たかさきの湯
(茶房たかさきの湯)

凝ったインテリアの茶房たかさきは、共同浴場めぐりなどで疲れた人たちの憩いの場になっています。

たかさきさんはこういった人たちに、茶房たかさきの来店者にかぎり、自宅のお風呂場を無料で開放したわけです。

茶房たかさきの内部
 
たかさきさん
(茶房たかさきの内部)
(たかさきさん)

入浴希望者は、母屋の勝手口らしき入り口から浴室に入ります。
脱衣場には電気洗濯機などがあり、非常に家庭的な雰囲気です。
白を基調にした浴室は、洗い場の床と浴槽の縁や底に石を配した石風呂で、壁にはブルーの山を描いた壁絵が描かれています。

茶房たかさきの湯は、別府市から供給を受けた脇浜温泉の源泉かけ流しのお湯です。浜脇温泉は単純泉で無色透明、無味無臭の温泉です。

さらりとしたお湯ですが良くあたたまり、入浴後、茶房たかさきで珈琲や紅茶を飲みながらたかさきさんの温泉談義や「別府八湯表千家」の体験談を語り合っていると時の経つのも忘れるほどです。

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