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編集部員のリレー随筆(43)

全国 変わり種共同浴場(その3)

制作:ひろさん

ここでいう「共同浴場」とは、熱源が温泉で、誰にでも公開している(誰でも希望すれば入ることのできる)浴場をいいます。
主に全国の温泉場に見られますが、大分県の別府市や、鹿児島県鹿児島市、長野県諏訪市のように市街地の至る所に公衆浴場として点在する都市もあります。
先に書いた変わり種共同浴場の第三弾です。
今回は温泉もさることながら、建物に特徴のある共同浴場の例を3カ所ほど紹介します。

上諏訪温泉・片倉館
武雄温泉・新館
別府温泉・駅前高等温泉

○ エッ? 大正ロマンの洋館が共同浴場? (上諏訪温泉片倉館)

(片倉館が平成23年6月に国の重要文化財に指定されました)

長野県諏訪市は共同浴場が数多くありますが、大半は非公開で、地元の人たちが地域の人と共同管理し自分たちだけで入っています。

公開されている上諏訪温泉の共同浴場の中で異色の存在は片倉館です。

片倉館は片倉財閥の2代目社長、片倉兼太郎氏が欧米の視察旅行を行った際に、各国は文化福祉施設が充実していたのを見聞し、感化を受け、帰国後諏訪に文化福祉施設を作りたいと切望、片倉同族に支援を受け、「財団法人片倉館」を設立して着手した施設で、大正末に企画され昭和2年着工、昭和3年に竣工した名物温泉です。

設計は当時著名な森山松之助氏で、同氏の作品は数多く現存しているとのことです。

片倉館
(片倉館)

片倉館の場所は諏訪湖のほとりの一等地です。
JR上諏訪駅からも徒歩5〜6分の場所です。
敷地内に温泉浴場棟と会館棟がありますが、温泉浴場棟は鉄筋二階建てで面積は1311m2(397坪)で、男女浴場が一階にあり、二階は休憩所兼食堂になっています。

正面エントランス
 
脱衣場と浴室入り口
(正面エントランス)
(脱衣場と浴室入り口)

共同浴場片倉館に入ったら先ず千人風呂に入りましょう。

千人風呂
(千人風呂)

千人風呂は幅4m、長さ7.5m、深さ1.1mという大きさで、100人ほどが一度に入れそうな大浴場です。
大理石造りの浴槽はかなり深く、また底には黒い玉砂利が敷き詰められているので、中を歩くと足の裏に心地よい刺激があります。

浴室内の装飾1
 
浴室内の装飾2
  浴室内の装飾3
(浴室内の装飾1)
 
(浴室内の装飾2)
 
(浴室内の装飾3)

浴室内の装飾も凝っています。
昭和初期の洋館につきもののいろいろな美術工芸品があり、ゆっくり湯浴みを楽しむように工夫したと推察されます。

階段の手すり
 
二階の休憩所1
  二階の休憩所2
(階段の手すり)
 
(二階の休憩所1)
 
(二階の休憩所2)

二階の休憩室に至る階段は大きなアーチ型の窓を配して明るく、階段の手すりがカーブしてつるつるに磨かれています。
また、二階の休憩所は柱の少ない大空間になっており、建築的にかなり工夫したと思われます。

片倉館にはまだまだ見るべきところがたくさんあります。

機会があったら是非訪ねてください。


○ エッ? 国の重要文化財が共同浴場? (武雄温泉新館)

佐賀県の武雄温泉は非常に歴史の古い温泉場で有名ですが、さらに2005年7月に武雄温泉の楼門と新館が建築物として国の重要文化財に指定されて、武雄温泉の名前はいっそう有名になりました。


武雄温泉楼門
(武雄温泉楼門)

楼門は赤い柱と漆喰でできており、武雄温泉のシンボルといわれていますが、楼門をくぐって奥にある武雄温泉新館も、まるで竜宮城を思わせるたたずまいです。

武雄温泉新館
(武雄温泉新館)


この建物の設計者は東京駅や日本銀行の設計でも有名な辰野金吾氏で、同氏は同県唐津市の生まれです。

辰野金吾は明治大正期を代表する建築設計家で、帝国大学工科大学(今の東大工学部)学長、日本建築学会会長などの要職を歴任しました。

このページの第一番目に紹介した長野県上諏訪温泉の片倉館の設計者・森山松之助が、帝国大学工科大学建築学科において辰野金吾のもとで学んだとありますから、人のつながりの因縁というのも面白いものです。

武雄温泉新館と武雄温泉楼門は武雄温泉組(現在の武雄温泉株式会社)が辰野、葛西建築事務所に設計を、清水組(現在の清水建設)に施工を委託して、大正3年(1914)に着工、翌4年に竣工しました。
平成に入って改修が終わり、その後重要文化財に指定されたのです。

昔の浴室は、十銭湯浴室とか五銭湯浴室とか呼ばれて空のまま(お湯を入れないで)公開されています。
残念ながら共同浴場は営業しておらず、武雄市の記念行事などがあるとき、五銭湯浴室は足湯として公開されます。


十銭湯浴室
 
五銭湯浴室
(十銭湯浴室)
(イベント時は五銭湯浴室が足湯として体験入浴可)

十銭湯浴室はかなり深く、片倉館の千人湯を思い起こさせます。

現在の武雄温泉の共同浴場は?

武雄温泉株式会社では、現在、武雄温泉元湯と武雄温泉蓬莱湯、武雄温泉鷺乃湯の三つの共同浴場を運営しています。

元湯と蓬莱湯は、楼門をくぐって左側の和風建築の中にあり、武雄温泉鷺乃湯は武雄温泉新館の右側にある旅館「楼門亭」の中にあります。


武雄温泉元湯

元湯は楼門をくぐって左手にある和風の建物の中で営業しています。
檜をふんだんに使った浴槽が印象的です。
お湯はなめらかな、肌触りの良いお湯です。
 
武雄温泉元湯
(武雄温泉元湯)
  元湯の浴槽
(武雄温泉元湯・浴槽)

武雄温泉蓬莱湯

蓬莱湯も同じ建物の中にあります。
元湯に比べてやや高級で、カランやアメニティ(ボディシャンプーなど)が充実しています。
お湯は全く同じ源泉です。
 
武雄温泉蓬莱湯
(武雄温泉蓬莱湯)
  蓬莱湯の浴槽
(武雄温泉蓬莱湯・浴槽)

武雄温泉鷺乃湯

鷺乃湯は旅館「楼門亭」の中の浴場で、三ヶ所の共同浴場の中では最高級の共同浴場です。
窓の外には露天風呂があります。
この日は露天風呂の撮影は入浴していた人から断られ映像がありません。
 
武雄温泉鷺乃湯
(武雄温泉鷺乃湯)
  鷺乃湯の浴槽
(武雄温泉鷺乃湯・浴槽)


武雄温泉の泉質は先に申し上げた通り、やわらかく、肌によいお湯です。
辰野金吾博士の設計した建物の見学かたがた泉質の良い武雄温泉を訪ねるのも一興でしょう。


註 重要文化財で共同浴場を運営している他の例

道後温泉本館 (なお、実際に重要文化財のままその中で共同浴場を運営している例は四国/愛媛県の道後温泉があります。
かの有名な道後温泉本館です。(通称「坊ちゃんの湯」)


筆者も数回訪れていますが、この温泉はたいそう混んでおり、浴室などの写真はとても撮影できません。
この随筆をまとめるにあたり十分な映像がないため割愛しました。)




○ エッ? 大正時代の洋館が共同浴場? (別府・駅前高等温泉)

JR別府駅のメインストリートにある「駅前高等温泉」は上記二棟の洋館に比べたら設計者も判明しない建物ですが、一見したら忘れられない印象深い建築物です。

別府駅前高等温泉
(別府駅前高等温泉)

いろいろと調べましたが以下のことしかわかりませんでした。

駅前高等温泉は、古くからあり、薬師温泉または駅前薬師温泉といわれていたそうで、今の建物は大正13年(1924年)に地元有志が二百円余を投じて建設に着手し翌年完成したのだそうです。
当然のことながら、設計者も建築業者も不詳のようですが、西欧の民家風の建物は当時の共同浴場としては斬新というかモダンというか、その建物が今も現役で共同浴場として人気を集めているのに感激しました。

駅前高等温泉は、地元では維持できなくなり、別府市に寄付されましたが、管理は地元が行う別府市営温泉です。

駅前高等温泉には二種類の浴室があります。並湯と高等湯の二種類です。

並湯は入浴料金が100円でシャワーなどの設備がありません。
高等湯はシャワーなどの設備付きで、浴槽も二つ備えていますが入浴料金は300円です。


並湯の脱衣場
 
並湯の浴槽
(並湯の脱衣場)
(並湯の浴槽)


高等湯の脱衣場
 
高等湯の浴槽
(高等湯の脱衣場)
(高等湯の浴槽)


並湯と高等湯で泉質も泉温も全く異なり、並湯はぬるめでせいぜい39度位しかなく肌触りがぬるすべ系ですが、高等湯は熱めでしゃっきりした浴感です。

駅前高等温泉の二階は、浴後の休憩場所として利用できるほか、素泊まりですが宿泊も可能です。

駅前高等温泉には合計3回程入浴しましたが、二階には足を踏み入れたことがないので、掲示されていた料金表を紹介するだけにとどめます。

別府駅前高等温泉
(別府駅前高等温泉)

この料金表は2007年に撮影しましたが、値上げしたという話は聞いていないので、いまだにこの価格は保たれているようです。
別府の物価の安さは驚く程で、繁華街の安い食堂(いわゆるB級グルメ食堂)で夕食を摂れば非常に安い湯の旅が可能になります。



制作:ひろさん



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