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編集部員のリレー随筆(23)


「泉ケ谷研究会」について 


地元の有志で活動している「泉ケ谷研究会」を紹介いたします。

1.「泉ケ谷」のこと

    泉ケ谷とは、鎌倉市扇ガ谷2丁目にあたり、昭和43年 (1978) の住居表示の変更前まで 使われていた字名です。
    鎌倉五山の一つ寿福寺の北にある英勝寺の前から、横須賀線を東側に越えたその先の東北に位置します。
    谷あいで、車1台が通れるほどの道が通っています。山で行き止まりですから通過する車もなく、閑静なところです。
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谷あいの入口 谷あいの奥が行止りです。
ただし、鶴岡八幡宮左手の山中の青梅聖天へは
山歩きのスタイルなら可能

    谷あいに入って間もなく、左手に浄光明寺 (真言宗 泉涌寺派 準別格本山) があります。第六代執権北条長時により真阿上人 (? - 1296) を開山として、1251年 (建長三年) に創建されました。

    鎌倉幕府滅亡直後には足利尊氏が一時逗留したといわれ、江戸時代には、沢庵和尚徳川光圀 (水戸黄門) なども訪れ、『東海道中膝栗毛』の作者、十返舎一九が "網引き地蔵" (石造地蔵菩薩) の前の茶屋でお酒を飲んだといった記録もあり、(他の地域と同様) 歴史にこと欠きません。
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浄光明寺参道 境内の右手と不動堂


    文化財については、国の指定 (重文) として、阿弥陀如来坐像及両脇侍坐像 (観音菩薩、勢至菩薩)、浄光明寺五輪塔 (覚賢塔) があり、平成17年には、鎌倉時代末期のこの地の様子を示す貴重な絵図であることから、浄光明寺敷地絵図 が指定されました。加えて、県・市の指定のものなど数多くの文化財があります。
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冷泉為相墓 宝篋印塔 浄光明寺五輪塔 (覚賢塔)

    ついで、平成19年には、冷泉為相の宝篋印塔の地点が国の史跡でしたが、「浄光明寺敷地絵図」に示された旧境内へと拡大されました。
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「浄光明寺敷地絵」 「浄光明寺敷地絵」中心部分の拡大図


2.「泉ケ谷研究会」のこと

    歴史や文化財、さらには自然環境などについて、住民のかたが知識を共有し、さらに若い世代へ継承してもらうことを目的に、有志で平成18年5月に「泉ケ谷研究会」をつくりました。
    現在10名のメンバーで、毎月1回、浄光明寺の客殿を借りて勉強会を行っており、この5月で21回になりました。

    メンバーには、歴史の専門のかたもおり、ビデオなど映像作成の得意なかた、歴史の好きなかた、昔から住んでいるので生き字引のようなかたなど、多士済々です。

    活動を聞いて、古い地図や資料を紹介していただいたり、邸宅のなかの「やぐら」の調査に喜んで協力していただけるなど、ご理解をいただいています。


3.研究会の活動

(1)「やぐら」の調査

    町内の「やぐら」の分布や規模の調査をしています。 やぐらは、浄光明寺の境内や多宝寺址などにありますが、谷あいですのであちこちに散在しています。

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やぐらの調査 (1) やぐらの調査 (2)

    手始めは、今年の2月、巨福呂坂の(北に向かい)左手の山の中の調査でした。久しぶりに子供の頃の気持ちに戻っての山歩きとなりました。その後毎月 "やと" の中を調査をしています。


(2)「松厳寺殿の石碑」の拓本

    泉ノ井の斜向かいに、2メートルほどの石碑が立っています。風化が激しくほとんど読めません。『鎌倉』−史跡めぐり会記録−(279ページ) によると、昭和11年当時でもほとんど読めなかったようです。

    肉眼では、10%ほども読めない程度ですから、拓本ではどうなるか興味深々でした。拓本の経験の深いかたが見事な手さばきで、文字が浮き上がってきました。

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拓本の作業 拓本で浮き上がった文字

    拓本を採る作業は、まさに念じながら文字を呼び起こすといった表現がぴったりでした。どのくらい読めるか期待されます。


(3)「泉の井」のこと

    浄光明寺の先にある「泉ノ井」は鎌倉十井の一つで、史跡です。しかしながら、ほとんどの十井がそうであるように、訪れたかたはいささかがっかりするのではないでしょうか。泥と落ち葉に埋もれて、水溜りといった状態です。

    町内会の清掃時には、草を取ったりしていますが、もう少し整備しようということになり、昨年の8月に掘り下げました。

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泉ノ井 (1) 泉ノ井 (2)

   あまり深いと落ちたときに危険ということで、50センチほどを目標にしましたが、思いのほか湧き水が多く、30センチほどで断念せざるをえませんでした。

    現在は、少々よくなったかという状態ですが、夏でも豊富な湧き水がでていることが分かったのは収穫です。 再挑戦を考えているところです。


(4)研究会のまとめと報告

    吾妻鏡やメンバーのかたが作成した資料や年表、教材、ホームページの資料などを持ち寄って、地名の由来や歴史、文化財などについてまとめています。

    昨年は、中間報告として、10ページほどの印刷物をつくりました。
    さらに、パワーポイントにし、ビデオに撮り、町内会の夏祭りには、境内に手作りのスクリーンを設け、プロジェクターで映写してPRもしました。

    最終的に、どのようなかたちに仕上げるか検討中です。
    下は、中間報告の一部です。
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中間報告の中から (1) 中間報告の中から (2)


制作:泉ノ井



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