古き鎌倉再見 その12

―長谷・坂ノ下の辺り2―

 長谷寺門前の景。長谷寺は、寺伝によれば天平8年(736)の創建といいます。本尊は高さが約9メートルの木造十一面 観音立像で、同寺は観音霊場坂東(ばんどう)三十三か所の第四番札所として、江戸時代以来参詣者でにぎわいました。
 中央奥は観音堂。門前参道の両側にはかやぶきの建物が並んでいます。門前町の建物のなかには宿屋か商店などもあるようですが、なぜかひっそりとした家並です。また、画面右の家の前にはコウモリ傘をさした和服姿の女性がひとりたたずんでいますが、このような和洋折衷の風俗が見られる写真は珍しく、ここにも「文明開化」の影響が現れたことがうかがえます。  
 ところで観音堂と十一面観音立像については、文久3年(1863)スイスの参議院議員で特派使節団首席全権のエーメ・アンベールが長谷寺を訪れた時、「しかし、われわれを出迎えた僧侶たちがわれわれを中央祭壇の後ろに案内した。そこには、監獄のように薄暗く、塔のように高い空間があり、彼らは二つの提燈に火をともして、それを長い竿のようなものでおもむろに上にあげて、この二つの光で、真暗だった屋根の下の闇を照らし出すと、高さ十メートルから十二メートルもある、金粉を塗った大きな木像が見えた。右手に笏(しゃく)を持ち、左手に蓮の花を持っており、頭には、位の低い仏の顔を三つ付けた冠を戴いていた」と書き残しています(『新異国叢書14 アンベール幕末日本図絵 上』高橋邦太郎訳 昭和44年 雄松堂書店)。この一文は、幕末にわが国を訪れた外国人の見聞録の一節ですが、この頃の観音堂内部の様子がうかがえ、さらには当時の拝観方法までも知ることができる貴重な史料の一つといえるでしょう。
 なお、この写真は前回(その11)の写真と同じアルバムに収められているので、ほぼ同時期の撮影としてもよいかも知れません。

写真:長谷界隈(鎌倉市中央図書館蔵)
写真1 長谷寺門前(鎌倉市中央図書館蔵)

浪川幹夫

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