鎌倉にゆかりのある方にお話を聞く…第2回 My 鎌倉
今回のゲスト
萩原輝治さん(日本美術家連盟会員)
神社仏閣などのお目あてのポイントに至る道にも、季節ごとの美しい景色が隠されています。今月は萩原さん(画家)にそんな身近な場所の魅力を語っていただきました。また、絵をお描きになる立場から、スケッチの楽しみ方も合わせて伺いました。

「四季の顔」

 私が建築デザイナーの職を辞してから、鎌倉に移り住んで18年になります。当初は鎌倉のあちこちに出掛けたものでしたが、今では、自分の家の近くこそが、素晴らしいのではないかと思っています。風景の本当の価値は、1年を通じてのさまざまな顔を見なければわからないからだと思います。  ですから私のお勧めする場所は、明月院通りになります。  明月院通りの入り口の角には、茶室をお持ちの藁葺き屋根のお宅があります。それは、見逃してしまいそうな何のことはない小さな風景ですが、その藁葺きの屋根や道のたたずまいの雰囲気がとてもしっとりとして絵になるかもしれません。  みなさん明月院にはあじさいの頃に来ていますけど、秋の銀杏の落ち葉が道に散らばったときの美しさは言い様がありません。暑くなり始めた頃には、坂の途中のお宅の土手に咲いているツツジがすばらしいし、坂を上がる途中に明月谷を見下ろす所があり、そこでは風が吹いてきてほっと一息つけるんです。また、春先は鶯の声が道の右に左に聞こえます。冬は明月院の門柱に雪が積もって、視線を返すと藁葺き屋根にも雪があるし、とにかく風情のある道なんです。  道をたどると窯元やこじんまりした喫茶店がポツンとあったり、ふとしたところに庚申塔が立っていたり。北鎌倉を目当てにやってきた人にも、息抜きとして歩いてもらいたい道ですね。こんなに、見るべきいろいろなものが少しづつそろっている道は、鎌倉にもあまり類を見ないのではないでしょうか。  私は絵を描くのですが、鎌倉市のシルバーガイドの地図に絵を寄せたのをきっかけに知った、水彩画スケッチで楽しんでいます。これは散策をする上で役に立つと思います。私の場合、4号(333mm×242mm)のスケッチブックに鉛筆で概略を描いて、ポイントをセピア色の耐水性のペンで描き、鉛筆の線を練りゴムで消して固形水彩で着色するという手順でスケッチをします。コツは、絵というのは省略のことも頭に入れて、見る人に想像の部分を残して描くということが肝心なんです。  絵を描くことを習慣にすると、目が絵を描く感覚で風景を見ることになります。思わぬところに思わぬ発見があるものです。鎌倉には、ふと訪れる小さなお寺にも、絵になる場所がたくさんあるんです。
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