第79回 My 鎌倉   ロゴ
今月のゲスト

小林 洋子さん

「投扇興」
(都御流家元)


[2013.11.25]
  小林洋子さん
こばやし ようこさんのプロフィール
昭和10年代 京都に生まれる。後に大阪、福岡に移り京都に戻る。投扇興は幼少の頃、祖母に少し手ほどきをうける。
昭和40年代 京都で現代マナー教室開設。この時期に投扇興を再開。
昭和50年代 投扇興について研究開発を進める。
平成1桁年代 投扇興道具の意匠登録や特許の申請・都御流という名前を商標登録。
平成10年代 家族の要請で鎌倉に移転。

■ 鎌倉への移住

私は京都に住んでいましたが、平成17年、長男のところに孫が生まれたので、近くにいて何か役に立ちたいと鎌倉にやってきました。
鎌倉に住居を移してからあっという間に8年がたちました。鎌倉で投扇に興味をもってくださる方があるか心配でしたが、毎月第4土曜日に鎌倉駅前の教室で月例会を開催しています。その他に単発で企業・団体の親睦会などの要請で体験会を開催しています。一年に3〜4回京都に行き、名所旧跡などで会を開催しています。
これからの目標として、鎌倉には多くの外国の人達が来られますので世界大会を開きたいのです。この日本的な優雅でしかも他人の喜びを我が喜びとして一緒に遊べる心温まる遊びを通じて、世界の人達が仲良くなれますように是非実現したいのです。皆様のご協力を頂けたら嬉しいです。



■ 投扇(なげおおぎ)の普及活動

私が投扇興に魅せられてこの道一筋にのめり込んできましたのは、単に扇を投げて勝負を競うだけでなく、この遊びを通じて人生の大切なものを多く知らされたからでした。
投げられた扇が、的(蝶)に的中する際、技の巧拙だけではない諸処の要素が加わっています。むかしから、”心技体”と言われますように、その時々の心のありようや、投げる技術はもちろんの事、姿勢なども微妙に作用しますし、欲を捨てた無の境地から生れる絶妙の、まさに人知を超えた”運”のなせる技としか言いようのないシーンに出会うことが少なくありません。
こうした投扇興の奥の深さを多くの方々に体験していただき、日本の古典芸の持つ“美と””雅び”そして”ゆとり”ある競いの世界に触れていただきたい、それが都御流を興した私の願いなのです。私達の祖先からの大事なものが忘れ去られ、それがさまざまの形で問題を引き起こしている今の世でありますだけに、”伝統的な日本の遊び”としての投げ扇の持つ意義を痛感いたします。
投扇興は、年齢の差も性別も言葉の違いすらも越えて、誰もが一緒になって遊べますから、古き良きところは踏襲しながらも、現代にマッチした国際的な遊びとして世界中の人々が仲良く楽しく遊べる様に私なりにいろいろ工夫をしております。
今、日本を訪れる外国人のマナーが悪いと嘆く向きもありますが、迎える側の自国の人達のマナーも問わなければなりません。私はこの遊びを通じて、幼い子供達に人としての基本的なマナーを身につけながら日本文化の勉強にもなるようにと、成人向けは勿論の事、高齢の方達の楽しみにもリハビリにもなるようにとそんな遊びを工夫しているところです。


蝶(的)と枕(台) 対戦前の様子(お互いに扇を5本ずつ投げる)




投扇興(とうせんきょう)

古代中国大陸の春秋戦国時代にあった壺の中に矢を投げ入れて得点を競う「投壺(とうこ)」からヒントをえて江戸時代中期安永二年(1773)に考案された遊戯。
遊び方:毛せんの両端に向い合って座り、開いた扇子を投げて中央の的を落して得点を競う。的と扇子の関係には名前があり点数が異なる。
交互に5回ずつ、場所を変えて2回、計10回投げる。全体の点数で勝敗をきめる。個人戦と団体戦がある。



投壺(とうこ)

*中国の投壺
中国古代の宴席での遊戯。一つの壺に主客が交互に矢を投げ入れ、入った矢の数の多少で勝負を決する。その道具も投壺という。《礼記(らいき)》投壺篇には、その公式のやり方が記されている。それによると、投げ手から壺までの距離は矢2本半、矢の長さは室内、堂上、庭などの場所によって異なる。壺の中には小豆を入れて、矢が跳び出さないようにした。競技は1回に交互に4本の矢を投げ、それを3回繰り返し、負けた者は罰酒を飲む。

*日本の投壺
『和名類聚抄』雑芸類では、「投壺」に「つぼうち・つぼなげ」という訓が与えられている。

*投壺の復元
正倉院に投壺用の銅製の壺と木製の矢が残っているが、日本ではあまり投壺は行われなかった。江戸時代に儒学が盛んになると、投壺に注意する者も現れた。18世紀後半に学者の田中江南によって日本風にアレンジされた投壺が行われたことがあるが、長続きはしなかった。ただし投扇興は投壺を元にして考案されたといわれる。

小林さんの活動の特徴は、投扇の近代化のほかに投壺も復元しています。
江戸時代の物を復元した投壺の道具
向かい合って一本ずつ交互に 12本の矢をなげます
       
    壺の口に矢が入ると5点 耳は10点 
    12本のうち最初の矢が入れば10点おまけ
          最後の矢が入れば20点おまけ
           
   など・・その他いろいろ楽しいルールがあります



投扇興の採点法と特徴

私ども都御流では、よきひ形式・源氏形式・小倉形式と三種類の採点方法を使っています。

同じ形でも採点方法が違うと得点が違ってきます。

形式 特徴 採点法
よきひ 落ちた的と扇を3種類に分ける。どんな複雑の型が出ても簡単に採点が出来る。 点数 だけ
点差 小
(習熟者に有利)
源氏 落ちた的と扇の姿の関係に源氏物語55巻の名前がつけられている。種類が多く採点には習熟を要する。 点数・銘 (源氏物語の巻の名)
点差 大 
(偶然性あり 初心者でも優勝可能)
小倉 落ちた的と扇の型を20種類ほどに分ける。それぞれの型に名前と点数と和歌がきめられている。 点数・銘・和歌 (小倉百人一首)
点差 小


扇が枕の上に乗り、蝶が落された状態

よきひ
 
名前なし 点数のみで7点  

源氏
 
みおつくし(澪標) 55点
小倉 みゆき(御幸) 落ちた的が立って11点
落ちた的が倒れると−3点で8点になります。

たとえば、よきひ形式で2点獲得できるものが、源氏形式では「花散里〜」と銘は優雅ですが無点! これは力を入れ過ぎると扇が遠くに飛び的が手前に落ちる・・よくある型です。
源氏形式では夕霧と呼ばれ、8点のものが小倉形式では雲隠れと呼ばれて2点過料(返料)となります。
同じ状態の物でも採点方法が異なると得点数が、上記のように変ってきますが、世間でも住む世界が異なると価値観がちがってきます。こちらで良しとされている事が別の世界では何の価値もない。又、別の世界では価値が無いどころか罰を受けることになる。昔からの諺で”所変われば品変わる””郷に入れば郷に従え”といわれます。まさに遊びの中で人生の教訓を再確認させられる一つの例であります。

遊ぶ形態

座礼形式 昔ながらの日本的な形態ですが、最近は正座が苦手な方が増えています。
掛け札形式 椅子に腰かけて行いますので脚も楽ですし車椅子の方達も一緒に遊べます。(障害者・健常者と分かれている世界がありますが、車椅子の方に関してこの世界では同じ条件で競う事が出来るので素晴らしいと思っています。)
立札形式
 
正座が苦手な方もそうでない方にも好評です。人数が多い時は立食パーティ形式でホテルを使う事も出来ます。

優勝扇子
優勝者には金縁の白扇に文言と氏名を記入して授与します。個人戦のもの、団体戦のものなど競技の開始前に床の間に飾りつけしています。

会場は
時に応じて、人数に応じてどんな所でも行えます。
10名程度の少人数の集まりや20名・30名の大勢の集まりでもよろしいし、畳の部屋や洋間でも可能です。
遊ぶ方は日本人ばかりとは限らずに鎌倉を訪れる外国の人達とも一緒に遊びます。
初めての方でも、会の始まる前に少し練習をするとすぐに出来ます。

しかもこの遊びは単に扇を投げて勝ち負けを競うだけのものではありません。
集中力を養い精神修養にもなります。
勝ちたい・・・
いいところを見せたい・・・
あの人には負けたくない・・・
上手く出来なっかたら恥ずかしい・・・など諸々の事を考えないで、心を空にします。
心に何らかのプレッシャーをかけると不思議と扇が的に当たりません
何も考えないで 唯 無心で投げます禅に通じるという方も有ります。
どんな状態の時でも平常心を失わない。
目の前の人が高得点の形が出て幸せいっぱいであっても「人は人 自分は自分」と思えるように
・・・・・などなど遊びを通じて人生の教訓のようなものを再確認できます。

珍しい形のものは得点が高く、最高点は100点(これは未だに誰も・・)
その他 95点 90点 75点 55点 45点 30点 20点 10点 8点 5点 2点 1点など色々ありますが、珍しい型のものが出ると他の人達も「どんな形がでたの?」「何点ですか?」と集まってきて得点が告げられると「へえ〜!」「すごい!・・・」とみんなニコニコします。

・・・私の一番嬉しい瞬間です、他人の喜びを一緒になって喜ぶ・・・なんと素晴らしい事でしょう!!・・・



考案したゲーム

@ 投扇興 よきひ形式採点方法

昔からの小倉形式は、詠みあげる和歌を覚えたり、その他テンポが現代にそぐわないところもあり、源氏形式は55種の型の銘と点数を覚えるのに時間がかかる人もあったので、初心者でも簡単に採点しやすい方法をと思い、名前なしの唯点数だけでしかも計算しやすい様に工夫しました。

A 組扇(くみおうぎ)

5人1組の団体戦 (グループの仲間意識が高まる)
5人が一つのグループになり、一人扇子一本を担当します。リーダーを決めて組扇用のカードの中から、一枚を選びカードの指示通り、的を落すか落さないかを宣言して行います。宣言した通りだと得点になります。これは遊びに参加されて一点も取れなかった(一度も的を落とせなかった)方がガッカリされないように・・・と思って(的を落さない事が得点になる)そんなゲームを考案しました。
組扇に使っている五本線の組合わせは、昔から考案者不明として存在し、香道等に源氏香として使われています。投扇興も扇を五本使うことから、2種類の物と3種類の物を投扇興の遊びの中に取り入れて使っています



B 言の葉合扇(ことのはがっせん)

個人戦・団体戦  (日本の言葉の優雅さを楽しむ)
自然現象や動植物のあり方などを日本語のもつ優雅さや愉快さで表現している5文字の物(扇が5本なので)を50種選び出して様々の方面から採点出来るように考案しています。
外国の人達にも日本の言葉のやさしい雰囲気や自然・文化・風習などを遊びながら感じて頂けたらと思って、英語ではどう表現するのかを専門家に教えていただきながら研究しているところです。
(例えば 季節で括る・分野で括る・文字列で括るなど)
 
例えば、「はなふぶき・ほととぎす・きら・かぼた」 など 五文字の中で同じ音(濁点も)の赤文字のところで的を落すようにするという遊びです。「かたたたき」は同じ音が3つあるので、的を3回落さなければなりません。
 



■ 取材班より

今回インタビューにお伺いし、「投扇」の貴重な体験をさせて頂きました。的へあてることもはずすことも中々大変でした。


▲リンク先
都御流 投げ扇の世界
投扇興
投壺

千代田区観光協会 まちブログ


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